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 感染症の話 2000 年第6週(2月7日〜13日)掲載

◆狂犬病

 狂犬病は狂犬病ウイルスを保有するイヌ、ネコおよびコウモリを含む野生動物に咬まれたり、引っ掻かれたりして発症する人獣共通感染症である。


疫 学
 世界保健機関(WHO)によると、全世界で毎年3万5000 〜5万人が狂犬病によって死亡しており、アジア、アフリカ等では狂犬病の犬から感染した患者が多く発生している(図1)。しかしながら、日本での狂犬病は1970 年にネパールで感染し死亡した症例以外には、1957 年以降発生していない。その最大の要因はイヌへのワクチン接種および検疫制度によると同時に、わが国が島国であるということである。世界のなかでは狂犬病が根絶された地域はオーストラリア、イギリス、台湾、ハワイ等と島国に限られていた。しかしながらイギリスでは1996 年にコウモリの狂犬病が見つかり、またユーロトンネルの開通でフランス等からの狂犬病の侵入がおそれられている。またオーストラリアのコウモリ(fruit bat)から狂犬病に類似したAustralian bat virus が分離され、そのウイルスによる患者が1996年に報告された。こうしたウイルスによる狂犬病様疾患またコウモリによる狂犬病があらたに注目されてきている。


病原体
 狂犬病ウイルスおよびその関連ウイルスはリッサウイルスと称され、genotype1(狂犬病ウイルス), genotype 2 (Lagos bat virus), genotype 3(Mokola virus), genotype 4 (Duvenhage virus), genotype 5 (European bat virus, type 1), genotype 6 (European bat virus type 2)のタイプに分けられている。genotype1 がいままでに知られていた狂犬病ウイルスであるが、上述の如く、Australian bat virus が新しいgenotype として登場している。リッサウイルスはRNAウイルスであり、いずれも特徴ある砲弾型の形態をとる。

図1. 世界の狂犬病の分布

図2. 狂犬病の犬
"The Natural History of Rabies (Academic Press)" より転載

各画像をクリックすると拡大図が見られます。

臨床症状
 感染から発症までの潜伏期間は咬まれた部位等によってさまざまであるが、一般的には1 〜2カ月である。発熱、頭痛、倦怠感、筋痛、疲労感、食欲不振、悪心嘔吐、咽頭痛、空咳等の風邪様症状ではじまる。咬傷部位の疼痛やその周辺の知覚異常、筋の攣縮を伴う。脳炎症状は運動過多、興奮、不安狂躁から始まり、錯乱、幻覚、攻撃性、恐水発作等の筋痙攣を呈し、最終的には昏睡状態から呼吸停止で死にいたる。狂犬病は一度発症すれば、死亡率はほぼ100%である。ヒトからヒトへの狂犬病の感染例は、狂犬病患者からの角膜移植を除いて報告されていないが、狂犬病の疑わしい患者がでた場合、患者に直接接触する医者、看護婦等の医療従事者は接触予防に十分注意を払い、狂犬病と確認された場合には、直ちに暴露後免疫を行うべきである。


病原診断
 狂犬病の診断法は、生前診断として、1)角膜塗沫標本、頚部の皮膚、気管吸引材料および唾液腺を検体とした蛍光抗体(FA)法によるウイルス抗原検索 2)唾液、脳脊髄液を検体としたRT‐PCR 法によるウイルス遺伝子の検索 3) Fluorecent Focus Inhibition Test(FITC)、ELISA による抗体価の測定がある。しかしながら治療のためのワクチン投与などにより血清中の抗体価の上昇があり、診断価値は低い。脳脊髄液中の高い抗体価は診断の目安となる。いずれも感染初期の生前診断は不可能であり、接触した動物の脳材料の検査が重要である。死後の確定診断として、脳の部検によって得られた脳組織および脳乳剤を用いる。1)蛍光抗体(FA)法によるウイルス抗原検索 2)RT‐PCR 法によるウイルス遺伝子の検索 3)乳のみマウス、マウス神経芽腫細胞への接種試験によるウイルス分離がある。病原体の取り扱いはP3 レベルで行い、検査材料を取り扱う者は、あらかじめワクチンを接種しておくなどの十分な配慮が必要である。


治療・予防
 海外、特に東南アジアで狂犬病が疑われたイヌ、ネコおよび野生動物にかまれたり、ひっかかれたりした場合、まず傷口を石鹸と水でよく洗い流し、狂犬病ワクチンと抗狂犬病ガンマグロブリンを投与する。狂犬病は一旦発症すれば特異的治療法はない。このためできるだけ早期にワクチンと抗狂犬病ガンマグロブリンを投与する必要がある(日本では抗狂犬病ガンマグロブリンは入手困難である)。ワクチンとしてはヤギ脳を不活化したセンプル型のワクチン、乳のみマウス脳を不活化したフェンザリダ型のワクチン、組織培養ワクチンとして、フランスのヒト二倍体ワクチン、VERO ワクチン、ドイツと日本で製造されているニワトリ胚細胞のワクチンがある。動物脳由来ワクチンは副反応が組織培養のワクチンより強いので避けたほうがよい。またガンマグロブリンはヒトとウマの2種類の製剤があるが、ウマの製剤によるアレルギーが多く報告されているので注意する必要がある。
 WHO およびわが国では暴露後免疫(治療用としてのワクチン)は接種開始日を0として3、7、14、30、90日の6回を推奨している。前述のように日本では狂犬病が発生していないので、旅行等で海外にでかけてもその危険性を認識していない人が多く、イヌに不用意に近づきかまれる例があとを絶たない。むやみにイヌや野生動物に接触しないこと、現地の状況や活動範囲などから危険度を考慮して、必要があればワクチンをあらかじめ接種するよう勧められている。


感染症新法の中での狂犬病の取扱い
 狂犬病は、第4 類の全数届出疾患に定められており、診断した医師は診断から7日以内に保健所に届け出る必要がある。報告のための基準は、以下の通りとなっている。


《報告のための基準》
 ○診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ以下のいずれかの方法によって病原体診断や血清学的診断がなされたもの。
 ・病原体の検出
  例:唾液からのウイルスの分離
   脳の剖検によって得られた脳組織および脳乳剤を用いた、乳のみマウス、マウス神経芽腫細胞への接種試験によるウイルス分離など
 ・病原体の抗原の検出
  例:角膜塗沫標本、頚部の皮膚、気管吸引材料および唾液腺の生検材料からの直接蛍光抗体(FA)法などによる検出
   死後脳の剖検によって得られた脳組織および脳乳剤からの蛍光抗体(FA)法によるウイルス抗原の検出など
 ・病原体の遺伝子の検出
  例:唾液、髄液などからのRT‐ PCR 法
   脳の剖検によって得られた脳組織および脳乳剤からのRT‐PCR 法など
 ・病原体に対する抗体の検出
  例:Fluorescent Focus Inhibition Test 、ELISA法など
   (注)血中抗体価は治療のためのガンマグロブリン、ワクチン投与により上昇するため診断価値が少ない。髄液中の高い抗体価は診断の目安となる。

(国立感染症研究所ウイルス第一部 神経系ウイルス室  新井陽子)

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updated info

この記事は、2003年第18週 にて改訂しました。

 

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