国立感染症研究所 感染症情報センター
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IDWR 感染症発生動向調査週報

第36号ダイジェスト
(2007年9月3日〜9月9日)

 発生動向総覧


*2007年4月からの法改正に伴い、疾病の追加および並び順を一部変更しました。

全数報告の感染症

〈第36週コメント〉 9月12日集計分

注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。

*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。

1類感染症: 報告なし
2類感染症: 結核232例
3類感染症: 細菌性赤痢5例〔感染地域:兵庫県1例、国内(都道府県不明)1例、中国1例、インドネシア1例、中国/ドイツ1例〕
腸管出血性大腸菌感染症147例(うち有症者105例、うちHUS 1例、死亡なし)

感染地域:国内142例、インドネシア2例、中国1例、韓国1例、国外(国不明)1例
国内の多い感染地域:大阪府(12例)、京都府(11例)、福岡県(9例)、青森県(8例)、東京都(8例)、富山県(8例)*
 *飲食店における集団発生を含む
年齢群:10歳未満(53例)、10代(27例)、20代(24例)、30代(17例)、40代(5例)、50代(10例)、60代(3例)、70歳以上(8例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2(63例)、O157 VT2(34例)、O157 VT1(11例)、O26 VT1(8例)、O121 VT2(5例)、O111 VT1(3例)、O26 VT1・VT2(2例)、O103 VT1(2例)、O28 VT 2(1例)、O103 VT1・VT2(1例)、O111 VT1・VT2(1例)、145 VT1(1例)、O153 VT2(1例)、その他/不明(14例)

腸チフス1例(感染地域:ネパール)
パラチフス2例(感染地域:ともにインド)
4類感染症: E型肝炎1例(感染地域:福島県.感染源:豚レバー)
A型肝炎1例(感染地域:フィリピン)
デング熱1例(出血熱_感染地域:ベトナム)
日本紅斑熱2例(感染地域:島根県1例、宮崎県1例)
マラリア1例(熱帯熱_感染地域:ブルキナファソ)
ライム病1例(感染地域:北海道)
レジオネラ症10例(すべて肺炎型)

年齢群:30代2例、50代3例、60代4例、90代1例
感染地域:山形県1例、東京都1例、石川県1例、大阪府1例、愛媛県1例、鹿児島県1例、国内(都道府県不明)4例

レプトスピラ症2例(感染地域:ともに沖縄県.感染原因:川での遊泳1例、滝1例)
5類感染症:
アメーバ赤痢11例(腸管アメーバ症5例、腸管外アメーバ症5例、腸管及び腸管外アメーバ症1例)

感染地域:国内8例、中国1例、フィリピン1例、ベトナム1例
感染経路:経口4例、性的接触2例(異性間1例、異性間・同性間不明1例)、不明5例

ウイルス性肝炎1例〔B型_感染経路:性的接触1例(異性間)〕
急性脳炎2例〔サルモネラ菌1例(2歳)、病原体不明1例(20代)〕
クリプトスポリジウム症1例(感染地域:北海道.感染源:動物の糞便)
クロイツフェルト・ヤコブ病3例(すべて孤発性プリオン病古典型)
後天性免疫不全症候群11例(無症候9例、AIDS 2例)

感染地域:国内9例、国外2例(インドネシア1例、ブラジル1例)
感染経路:性的接触8例(異性間1例、同性間7例)、静注薬物常用1例、不明2例

梅毒7例(早期顕症I期2例、早期顕症II期5例)
破傷風1例(80代)
バンコマイシン耐性腸球菌感染症2例(遺伝子型:VanC 1例_菌検出検体:血液、遺伝子型:不明1例_菌検出検体:胆汁)

(補)他に細菌性赤痢1例(感染地域:タイ)、腸チフス1例(感染地域:ネパール)、エキノコックス症1例(多包条虫_感染地域:北海道)、日本紅斑熱1例(感染地域:島根県)、ライム病1例(感染地域:長野県)、レプトスピラ症2例(感染地域:ともに沖縄県)、急性脳炎4例〔肺炎球菌1例(60代)、病原体不明3例(1歳、10代、60代)〕、バンコマイシン耐性腸球菌感染症1例(遺伝子型:不明_菌検出検体:胆汁)等の報告があった。


定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)

全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000カ所)、眼科定点(約600カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
過去5年間の同時期との比較

インフルエンザ:定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してかなり多い。都道府県別では沖縄県(5.31)、静岡県(0.06)、長崎県(0.06)が多い。

小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症は204例の報告があり、報告数は第33週以降増加が続いている。年齢別では、1歳以下の報告数が全体の約72%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では高知県(1.67)、長野県(0.98)、宮崎県(0.92)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は3週連続で増加し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では鳥取県(2.11)、北海道(1.45)、富山県(1.34)、山口県(1.33)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は3週連続で増加し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では大分県(7.3)、島根県(6.3)、鳥取県(5.6)、宮崎県(5.4)が多い。水痘の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では沖縄県(0.97)、栃木県(0.77)、福岡県(0.77)が多い。手足口病の定点当たり報告数は2週連続で増加した。都道府県別では山形県(4.3)、秋田県(3.9)、岩手県(3.4)、宮城県(3.2)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では新潟県(1.20)、宮城県(1.03)、長野県(0.89)が多い。百日咳の定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では千葉県(0.10)、山口県(0.10)、熊本県(0.06)が多い。風しんの報告数は10例と増加した。都道府県別では大阪府3例、広島県2例、青森県、東京都、神奈川県、静岡県、兵庫県から各1例の順であった。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は第31週以降減少が続いているが、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では新潟県(5.0)、長野県(3.8)、青森県(3.8)が多い。麻しんの報告数は増加し、16都道府県から76例の報告があった。都道府県別では福岡県22例、大阪府15例、山梨県11例、京都府7例、千葉県5例、宮城県4例、北海道、埼玉県から各2例の順であった。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は横ばいであった。都道府県別では高知県(1.20)、秋田県(0.86)、宮崎県(0.75)が多い。

基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は2週連続で増加した。都道府県別では沖縄県(1.7)、福島県(1.3)、宮城県(1.0)、鳥取県(1.0)が多い。成人麻しんの報告数は減少し、6都府県から6例の報告があった。都道府県別では、東京都、神奈川県、大阪府、愛媛県、福岡県、佐賀県から各1例であった。




 注目すべき感染症


◆ 腸管出血性大腸菌感染症

腸管出血性大腸菌感染症は、感染症法の3類感染症として、無症状病原体保有者を含む症例の報告が、診断した全ての医師に義務付けられている。無症状病原体保有者は、食品産業従事者の検便によって偶然発見される場合もあるが、届け出された患者と食事をともにした者や、接触者の調査などによって発見される場合が多い。

2007年の腸管出血性大腸菌感染症の報告数は第19週に50例を超え、第22週には東京都における集団発生の影響から100例を超えた。第23週は196例(うち東京都105例)となった後、第24週には一旦80例に減少したが、その後は毎週100例以上の報告が継続して認められている。第28週(208例)、第30週(225例)、第34週(273例)、第35週(253例)は200例を超え、第36週は147例であった(2007年9月12日現在)(図1)。本年第36週までの累積報告数2,982例は、過去7年間の同週までの累積報告数と比較して、2001年に次いで多い報告数である(2000年2,458例、2001年3,677例、2002年2,541例、2003年1,824例、2004年2,804例、2005年2,610例、2006年2,798例。7年間の平均2,673例)。

第36週に報告のあった147例は、有症者105例(71%)で、無症状病原体保有者が42例(29%)であった。報告の多かった都道府県は大阪府(14例)、東京都(11例)、京都府(11例)、福岡県(10例)、富山県(9例)、青森県(8例)であった。感染地域は国内142例、インドネシア2例、中国1例、韓国1例、国外(国不明)1例であり、国内の感染地域として多かった都道府県は、大阪府(12例)、京都府(11例)、福岡県(9例)、青森県(8例)、東京都(8例)、富山県(8例)であった。富山県は焼肉店における集団発生による報告が含まれている。性別では男性70例、女性77例であり、年齢群別では0〜9歳53例(0〜4歳33例、5〜9歳20例)、10〜19歳27例、20〜29歳24例、30〜39歳17例、50〜59歳10例、70歳以上8例、40〜49歳5例、60〜69歳3例の順に多かった。
分離された菌の血清型・毒素型は、O157 VT1・VT2(63例)、O157 VT2(34例)、O157 VT1(11例)、O26 VT1(8例)、O121 VT2(5例)、O111 VT1(3例)、O26 VT1・VT2(2例)、O103VT1(2例)、O28 VT2(1例)、O103 VT1・VT2(1例)、O111 VT1・VT2(1例)、145 VT1(1例)、O153 VT2(1例)、その他/不明(14例)であった。

第1〜36週に報告された2,982例についてみると、報告の多い都道府県は、東京都(373例)、大阪府(318例)、福岡県(153例)、神奈川県(139例)、千葉県(127例)、兵庫県(120例)、石川県(108例)、埼玉県(105例)であった(図2)。感染地域は国内が2,936例(98%)であり、国外が35例、国内か国外か不明が11例であった。
症状の有無別では有症者2,001例(67%)、無症状病原体保有者981例(33%)、性別では男性1,324例(44%)、女性1,658例(56%)であり、年齢群別では0〜9歳1,093例(0〜4歳697例、5〜9歳396例)、20〜29歳478例、10〜19歳458例、30〜39歳306例、50〜59歳193例、40〜49歳150例、60〜69歳148例、70〜79歳91例、80歳以上65例の順に多かった。また、30歳未満の年齢群では有症状者が多く、30〜39歳及び40〜49歳は無症状病原体保有者が多くなるが、50歳以上の年齢群では再び有症者が多くなる傾向が認められる(図3)
分離された菌の血清型・毒素型は、O157 VT1・VT2(1,199例)、O157 VT2(895例)、O26VT1(306例)、O111 VT1(90例)、O111 VT1・VT2(84例)、O157 VT1(62例)、O121 VT2(60例)、O103 VT1(54例)の順に多かった。
溶血性尿毒症症候群(HUS)は、届け出時点以降の追加報告を含め、第36週までに79例が報告されている。本疾患の届出の基準としては、大腸菌の分離・同定かつ分離菌におけるベロ毒素の確認が必要であるが、溶血性尿毒症症候群(HUS)発症例に限り、2006年4月からは、便からのベロ毒素の検出や血清抗体(O抗原凝集抗体あるいはベロ毒素抗体)の検出によって診断された場合も届け出の対象とされている。79例のうち28例は菌が分離されず、そのうち2例が便からのベロ毒素の検出、26例が血清抗体の検出による診断として届け出られたものである。死亡例は、届け出時点以降の追加報告により、第36週までに2例(3歳、50代)報告されている。届け出時点以降でのHUSなどの合併症や死亡は十分反映されていない可能性があるので、発生があった場合には追加・修正報告していただくようお願いしている。

図1. 腸管出血性大腸菌感染症の年別・週別発生状況(1999年第14週〜2007年第36週)

図2. 腸管出血性大腸菌感染症の都道府県別累積報告状況(2007年第1〜36週)

図3. 腸管出血性大腸菌感染症の性別・年齢別・症状の有無別報告状況(2007年第1〜36週)


本年は学校での食中毒による大規模な集団発生が見られたほか、保育施設における集団発生はいまだに後を絶たない状況が続いている。また第34〜36週には飲食店における20例を超える集団発生も発生している。今後も報告数の多い状況が続くと考えられるので、その発生動向には引き続き注意が必要である。
食品の取り扱いには十分注意して食中毒の予防を徹底するとともに、手洗いの励行などにより、ヒトからヒトへの二次感染を予防することが大切である。特に、保育施設における集団発生が多くみられており、腸管出血性大腸菌に限らない日ごろからの注意として、オムツ交換時の手洗い、園児に対する排便後・食事前の手洗い指導の徹底が重要である。また、簡易プールなどの衛生管理にも注意を払う必要がある。さらに2006年には、動物とのふれあい体験での感染と推定される事例が報告されており、動物との接触後の充分な手洗いにも注意する必要がある。
保健所などによる原因食材・食品の調査の際には、感染症対策部門と食品衛生部門が連携することはもとより、食材・食品の流通の観点から都道府県を越えた発生拡大(Diffuse outbreak)も考慮し、必要に応じて関連自治体が協働して対応することも重要である。

(補)菌の検出状況については、http://idsc.nih.go.jp/iasr/prompt/graph-lj.html をご参照ください。


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