国立感染症研究所 感染症情報センター
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IDWR 感染症発生動向調査週報

第35号ダイジェスト
(2007年8月27日〜9月2日)

 発生動向総覧


*2007年4月からの法改正に伴い、疾病の追加および並び順を一部変更しました。

全数報告の感染症

〈第35週コメント〉 9月5日集計分

注意:これは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては一部を除いて発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。

*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。

1類感染症: 報告なし
2類感染症: 結核 259例
3類感染症: コレラ1例(感染地域:栃木県)
細菌性赤痢11例(感染地域:フィリピン3例、タイ2例、ベトナム2例、ミャンマー1例、中国1例、中国/ドイツ1例、米国/ペルー/キューバ1例)
腸管出血性大腸菌感染症228例(うち有症者150例、うちHUS 5例、死亡なし)

感染地域:国内225例、オーストラリア2例、国外(国不明)1例
国内の多い感染地域:大阪府(25例)、福島県(24例)*、富山県(22例)**、千葉県(14例)、福岡県(12例)、熊本県(12例)*、兵庫県(11例)
*保育園に関連した集団発生を含む
**飲食店における集団発生を含む
年齢群:10歳未満(95例)、10代(33例)、20代(30例)、30代(28例)、40代(7例)、50代(20例)、60代(5例)、70歳以上(10例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2( 110例)、O26 VT1( 45例)、O157VT2( 34例)、O111 VT1( 9例)、O157 VT1( 4例)、O103 VT1(3例)、O111 VT1・VT2(2例)、O121 VT2(2例)、O165 VT2(1例)、その他/不明(18例)

腸チフス1例(感染地域:ネパール)
4類感染症: A型肝炎1例(感染地域:佐賀県)
オウム病1例(感染地域:栃木県.感染源:ハト)
デング熱1例(感染地域:インドネシア)
日本紅斑熱5例(感染地域:和歌山県3例、徳島県1例、鹿児島県1例)
マラリア3例

熱帯熱1例(感染地域:ギニア)
原虫種不明2例(感染地域:ケニア1例、マレーシア/タイ/シンガポール1例)

レジオネラ症5例(すべて肺炎型)

年齢群:20代1例、50代1例、60代2例、70代1例
感染地域:大阪府2例、群馬県1例(温泉)、広島県1例、香川県1例(温泉)

レプトスピラ症2例(感染地域:佐賀県1例_感染原因:農業、感染地域:沖縄県1例_感染原因:川の水)
5類感染症:
アメーバ赤痢12例(腸管アメーバ症9例、腸管外アメーバ症2例、腸管及び腸管外アメーバ症1例)

感染地域:国内10例、マレーシア1例、国外(国不明)1例
感染経路:経口4例、性的接触1例(同性間)、不明7例

ウイルス性肝炎2例〔ともにB型_感染経路:性的接触1例(同性間)、不明1例〕
劇症型溶血性レンサ球菌感染症1例(50代)
後天性免疫不全症候群14例(無症候13例、その他1例)

感染地域:国内11例、国外3例(台湾1例、タイ/中国1例、国不明1例)
感染経路:性的接触13例(異性間3例、同性間10例)、不明1例

ジアルジア症2例(感染地域:国内1例、ロシア1例)
梅毒6例(早期顕症I期1例、早期顕症II期1例、無症候4例)
破傷風2例(40代、60代)


定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)

全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000カ所)、眼科定点(約600カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
過去5年間の同時期との比較

インフルエンザ:定点当たり報告数は横ばいであったが、過去5年間の同時期(前週、当該週、 後週)と比較してかなり多い。都道府県別では沖縄県(4.59)、宮崎県(0.14)、長崎県(0.07)が多い。

小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症は162例の報告があり、報告数は増加した。年齢別では、1歳以下の報告数が全体の約75%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では高知県(1.23)、広島県(0.90)、長野県(0.82)、佐賀県(0.70)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では北海道(1.57)、鳥取県(1.53)、山形県(1.43)、山口県(1.12)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では大分県(7.2)、島根県(6.7)、宮崎県(6.4)、鳥取県(5.2)が多い。水痘の定点当たり報告数は第25週以降減少が続いている。都道府県別では沖縄県(0.82)、大分県(0.69)、福井県(0.55)、福岡県(0.55)が多い。手足口病の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では秋田県(4.5)、山形県(4.5)、岩手県(2.9)、青森県(2.4)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は横ばいであった。都道府県別では高知県(1.03)、長野県(0.91)、宮城県(0.83)が多い。百日咳の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では山口県(0.10)、栃木県(0.09)、徳島県(0.09)、香川県(0.07)が多い。風しんの報告数は7例と減少した。都道府県別では愛知県2例、北海道、埼玉県、千葉県、石川県、兵庫県から各1例の順であった。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は第31週以降減少が続いているが、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では青森県(5.0)、新潟県(4.9)、宮崎県(4.2)、長野県(3.3)が多い。麻しんの報告数は減少し、22都道府県から67例の報告があった。都道府県別では福岡県26例、大阪府7例、宮城県、京都府、兵庫県から各4例、埼玉県3例、岩手県、千葉県、鹿児島県から各2例の順であった。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では福井県(0.91)、高知県(0.90)、岩手県(0.69)が多い。

基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では沖縄県(2.4)、福島県(1.3)、佐賀県(1.0)が多い。成人麻しんの報告数は減少し、5都府県から11例の報告があった。都道府県別では福岡県4例、大阪府3例、東京都2例、宮城県、千葉県から各1例の順であった。



 注目すべき感染症


◆ 麻疹

 麻しんは麻疹ウイルス(Paramyxovirus科Morbillivirus属)によって引き起こされる感染症であるが、空気感染(飛沫核感染)、飛沫感染、接触感染と様々な感染経路を示し、その感染力は極めて強い。典型的な麻疹を発症した場合、感染後10〜12日前後の潜伏期を経て、3日間前後続くカタル期で発症し、その後高熱と全身の発疹を呈する発疹期に至る。特異的な治療法はなく、カタル期・発疹期を合わせると1週間以上高熱が続き、入院率や肺炎、中耳炎などの合併症発生率が未だに高く、さらに脳炎などの重篤な合併症もみられる疾患である。また、カタル期はコプリック斑を除けば麻疹に特異的な症状に乏しく、この期間中に麻疹と診断されることのないままに発病者から感染を拡大させてしまう場合も少なくない。
感染症発生動向調査によると、全国約3,000カ所の小児科定点からの麻しんの報告数は、2007年第35週は22都道府県から67例(定点当たり報告数0.022)と前週の報告数(71例)よりも減少し、3週連続の増加とはならなかった(図1)。都道府県別では福岡県26例、大阪府7例、宮城県、京都府、兵庫県から各4例、埼玉県3例、岩手県、千葉県、鹿児島県から各2例の順であった。2007年の春季にみられた麻疹流行の中心であった南関東地域(千葉県、埼玉県、神奈川県、東京都)からの報告数は大きく減少してきている一方で、福岡県からの報告数は増加がみられており、また大阪府からも第21週以降10例前後の報告が継続している(図2)

 2007年第1〜35週までの小児科定点からの累積報告数は2,525例(定点当たり報告数0.84)であり、都道府県別では千葉県349例、埼玉県342例、神奈川県242例、東京都240例、大阪府197例、福岡県195例、北海道180例、宮城県93例、広島県76例、栃木県74例の順となっている。依然として南関東地域からの報告数は他の道府県よりも多いが、福岡県、大阪府からの報告数が増加してきている(図3)。累積報告数の年齢別割合では、0〜4歳の報告割合は39.0%(986例)と例年(55〜67%)と比べて低く、10〜14歳の報告割合は29.3%(740例)と例年(5〜15%)よりも高い状況が続いている(図4)

図1. 麻しんの年別・週別発生状況(1997年〜2007年第35週)

図2. 主要都道府県における麻しんの報告の週別推移(2007年第1〜35週)

図3. 麻しんの都道府県別累積報告状況(2007年第1〜35週)


 全国約450カ所の基幹定点からの成人麻しん(届出対象は15歳以上)の2007年第35週の報告数は5都府県から11例(定点当たり報告数0.024)となり、2週連続で減少した(図5)。都道府県別では、福岡県4例、大阪府3例、東京都2例、宮城県、千葉県から各1例の順であったが、小児科定点からの報告と同様に、福岡県や大阪府からの報告数が多くなっている(図6)。2007年第1〜35週までの累積報告数は805例(定点当たり報告数1.76)であり、都道府県別では東京都212例、神奈川県101例、宮城県74例、福岡県44例、埼玉県42例、大阪府36例、北海道34例、千葉県24例、山形県、新潟県から各21例の順となっている(図7)。累積報告数の年齢別割合では、20〜24歳27.3%(220例)、15〜19歳27.1%(218例)、25〜29歳22.4%(180例)、30〜34歳11.7%(94例)の順であり、30歳以下で全報告数の75%以上を、34歳以下で90%近くを占めている(図8)

図4. 麻しんの報告症例の年別・年齢別割合(2000年〜2007年第35週)

図5. 成人麻しんの年別・週別発生状況(1999年第14週〜2007年第35週)

図6. 主要都道府県における成人麻しんの報告の週別推移(2007年第1〜35週)

図7. 成人麻しんの都道府県別累積報告状況(2007年第1〜35週)

図8. 成人麻しんの報告症例の年齢別割合(2007年第1〜35週)

 麻疹の重篤な合併症である麻疹脳炎の発生は、2007年ではこれまでに第13、16、20、21、23、25、31、32週に計8例(13歳1例、16歳2例、18歳1例、21歳1例、26歳2例、28歳1例)が診断され、報告されている。
 全国の衛生研究所における麻疹ウイルスの分離・検出状況をみると、2007年2〜8月に北海道、宮城県、秋田県、山形県、福島県、茨城県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、石川県、福井県、山梨県、愛知県、三重県、大阪府、兵庫県、和歌山県、島根県、岡山県、広島県、福岡県、佐賀県、熊本県、大分県、宮崎県、沖縄県の28都道府県から麻疹ウイルスの分離・検出が387件報告されている。遺伝子型別まで実施された275件中265件ではD5型が検出されており、他にはA型9件(ワクチン接種後2週間以内に採取された検体から)とH1型1件(中国から帰国して5日後に発症した患者から)が検出されている(本号17ページ「病原体情報」参照、最新の報告数は感染症情報センターホームページ:https://nesid3g.mhlw.go.jp/Byogentai/Pdf/data61j.pdf)。
  麻疹の流行は春季から初夏にかけてが一般的であり、そのピークは5月後半から6月前半となることが多い。今回の麻疹の流行においても、小児科定点からの麻しんの報告数、及び基幹定点からの成人麻しんの報告数は共に第21週(小児科定点からの麻しん報告数215、基幹定点からの成人麻しん報告数82)が最大であった。流行の中心であった南関東地域からの麻しん及び成人麻しんの報告数はその後大きく減少したが、他方で福岡県からの報告数は増加傾向にあり、また大阪府も明らかな減少傾向にあるとは言い難い状態が続いている(図2、図6)。夏季休暇が終了し、今後今回の麻疹の流行の中心であったと考えられる10代、20代の高校、大学、専門学校等の学生層において、集団生活が再開されることとなるが、特に夏季休暇中にもかかわらず麻疹の発生が継続もしくは増加した地域においては、麻疹の発生動向について注意する必要がある。なお、今春のカナダにおける修学旅行高校生や、最近みられた米国におけるスポーツイベントでの年長児の例などのように、麻疹排除地域における日本人渡航者の麻疹発症例が、国際的に問題視されている。この背景には、各国およびWHOなどの国際機関が、国際的な感染症の伝播や移動に警戒を強めている改訂国際保健規則(IHR2005)の今年6月からの実施によるところが大きい。
今回の麻疹の流行を受けて、(1)流行の中心であった麻疹関連ワクチン1回接種世代の一部に対する補足的ワクチン接種機会の提供と任意接種での積極的な勧奨、(2)麻疹発生例の全数把握と予防接種実施状況の把握、(3)麻疹発生時の迅速な対応、(4)麻疹対策実施体制の確立、等の各種対策が、今後の日本国内の麻疹の排除(Elimination)に向けて現在検討されつつある。もっとも、2007年の日本国内における麻疹の流行は、まだ継続中である。医療機関、学校、施設等における麻疹の発生と伝播、流行外の地域への麻疹の流入、そして既に麻疹が排除された国々への麻疹の輸出等、すぐに解決すべき問題がまた新たに発生する可能性があり、麻疹の流行に関する警戒は秋季においても継続していく必要がある。現状のまま新たな対策が行われなければ、来年以降も本年と同様の状況が繰り返されると考えられる。早急に対応が必要である。

 以下に、麻しん関連情報として感染症情報センターのホームページに掲載されている主な項目とそのURLを挙げる。麻しん対策として活用いただければ幸いである。

■麻疹(はしか):http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/index.html
 □緊急情報
 □関連情報(注目すべき感染症/速報「麻しん」、施設別発生状況(学校欠席者数)、医療機関での麻疹の対応について、保育園・幼稚園・学校等での麻しん患者発生時の対応マニ ュアル)
 □国内情報(麻疹の現状と今後の麻疹対策について、わが国の健常人における麻疹PA抗体保有率、病原微生物検出情報[IASR]麻疹特集、ウイルス検出状況他)
■Q&A:http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/QA.html
■麻疹発生DB(データベース):http://idsc.nih.go.jp/disease/measles/meas-db.html
■予防接種の話「麻疹」:http://idsc.nih.go.jp/vaccine/b-measles.html
■年齢別麻疹、風疹、MMRワクチン接種率
 :http://idsc.nih.go.jp/vaccine/atopics/atpcs001.html
■感染症の話「麻疹」:http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k03/k03_03/k03_03.html
■「麻疹・風疹ワクチンなぜ2回接種なの?」ポスター
 :http://idsc.nih.go.jp/vaccine/cpn01.html
■「麻疹風疹混合ワクチンを1歳のお誕生日のプレゼントにしましょう」ポスター
 : http://idsc.nih.go.jp/vaccine/cpn04.html
■「小学校入学準備に2回目の麻疹・風疹ワクチンを!」ポスター
 : http://idsc.nih.go.jp/vaccine/cpn07.html
■2006年度第2期麻疹・風疹ワクチン接種に関する全国調査−最終評価−
 : http://idsc.nih.go.jp/iasr/rapid/pr3313.html


◆ 腸管出血性大腸菌感染症

 腸管出血性大腸菌感染症は、感染症法の3類感染症として、無症状病原体保有者を含む症例の報告が、診断した全ての医師に義務付けられている。無症状病原体保有者は、食品産業従事者の検便によって偶然発見される場合もあるが、届け出された患者と食事をともにした者や、接触者の調査などによって発見される場合が多い。

 2007年の腸管出血性大腸菌感染症の報告数は第19週に50例を超え、第22週には東京都における集団発生の影響から100例を超えた。第23週は196例(うち東京都105例)となった後、第24週には一旦80例に減少したが、その後は毎週100例以上の報告が認められる。第28週(208例)、第30週(224例)、第34週(253例)は200例を超え、第35週も228例と2週続けて200例を超えた(2007年9月5日現在)(図1)。本年第35週までの累積報告数2,784例は、過去7年間の同週までの累積報告数と比較して、2001年に次いで多い報告数である(2000年2,268例、2001年3,534例、2002年2,452例、2003年1,701例、2004年2,648例、2005年2,417例、2006年2,618例。7年間の平均2,520例)。


 第35週に報告のあった228例は、有症者150例(66%)で、無症状病原体保有者が78例(34%)であった。報告の多かった都道府県は大阪府(26例)、福島県(24例)、富山県(22例)、千葉県(15例)、福岡県(12例)、熊本県(12例)、兵庫県(11例)、岩手県(10例)であった。感染地域は国内225例、オーストラリア2例、国外(国不明)1例であり、国内の感染地域として多かった都道府県は、大阪府(25例)、福島県(24例)、富山県(22例)、千葉県(14例)、福岡県(12例)、熊本県(12例)、兵庫県(11例)であった。福島県、熊本県は保育施設での集団発生に関連した報告が含まれている。また、富山県は焼肉店における集団発生による報告が含まれている。性別では男性110例、女性118例であり、年齢群別では0〜9歳95例(0〜4歳62例、5〜9歳33例)、10〜19歳33例、20〜29歳30例、30〜39歳28例の順に多かった。

 分離された菌の血清型・毒素型は、O157 VT1・VT2(110例)、O26 VT1(45例)、O157 VT2(34例)、O111 VT1(9例)、O157 VT1(4例)、O103 VT1(3例)、O111 VT1・VT2(2例)、O121VT2(2例)、O165 VT2(1例)、その他/不明(18例)であった。

 第1〜35週に報告された2,784例についてみると、報告の多い都道府県は、東京都(359例)、大阪府(306例)、福岡県(142例)、神奈川県(132例)、千葉県(121例)、兵庫県(115例)、石川県(104例)、埼玉県(102例)であった(図2)。感染地域は国内が2,744例(99%)であり、国外が29例、国内か国外か不明が11例であった。

 症状の有無別では有症者1,878例(67.5%)、無症状病原体保有者906例(32.5%)、性別では男性1,228例(44%)、女性1,556例(56%)であり、年齢群別では0〜9歳1,011例(0〜4歳642例、5〜9歳369例)、20〜29歳448例、10〜19歳428例、30〜39歳281例の順に多かった。また、30歳未満の年齢群では有症状者が多く、30〜39歳及び40〜49歳は無症状病原体保有者が多くなるが、50歳以上の年齢群では再び有症者が多くなる傾向が認められる(図3)
 分離された菌の血清型・毒素型は、O157 VT1・VT2(1,115例)、O157 VT2(856例)、O26VT1(270例)、O111 VT1(87例)、O111 VT1・VT2(83例)、O121 VT2(54例)、O103 VT1(52例)、O157 VT1(50例)の順に多かった。
 溶血性尿毒症症候群(HUS)は、第35週までに75例が報告されている。本疾患の届出の基準としては、大腸菌の分離・同定かつ分離菌におけるベロ毒素の確認が必要であるが、溶血性尿毒症症候群(HUS)発症例に限り、2006年4月からは、便からのベロ毒素の検出や血清抗体(O抗原凝集抗体あるいはベロ毒素抗体)の検出によって診断された場合も届け出の対象とされている。75例のうち25例は菌が分離されず、そのうち2例が便からのベロ毒素の検出、23例が血清抗体の検出による診断として届け出られたものである。死亡例は2007年では第35週までに2例(3歳、50代)報告されている。届け出時点以降でのHUSなどの合併症や死亡は十分反映されていない可能性があるので、発生があった場合には追加・修正報告していただくようお願いしている。

図1. 腸管出血性大腸菌感染症の年別・週別発生状況(1999年第14週〜2007年第35週)

図2. 腸管出血性大腸菌感染症の都道府県別累積報告状況(2007年第1〜35週)

図3. 腸管出血性大腸菌感染症の性別・年齢別・症状の有無別報告状況(2007年第1〜35週)

 本年は学校での食中毒による大規模な集団発生が見られたほか、保育施設における集団発生はいまだに後を絶たない状況が続いている。また第35週には飲食店における20例を超える集団発生も発生している(9月5日現在では16例の報告)。今後も報告数の多い状況が続くと考えられるので、その発生動向には引き続き注意が必要である。
 食品の取り扱いには十分注意して食中毒の予防を徹底するとともに、手洗いの励行などにより、ヒトからヒトへの二次感染を予防することが大切である。特に、保育施設における集団発生が多くみられており、腸管出血性大腸菌に限らない日ごろからの注意として、オムツ交換時の手洗い、園児に対する排便後・食事前の手洗い指導の徹底が重要である。さらに2006年には、動物とのふれあい体験での感染と推定される事例が報告されており、動物との接触後の充分な手洗いにも注意する必要がある。
 保健所などによる原因食材・食品の調査の際には、感染症対策部門と食品衛生部門が連携することはもとより、食材・食品の流通の観点から都道府県を越えた発生拡大(Diffuse outbreak)も考慮し、必要に応じて関連自治体が協働して対応することも重要である。

(補)菌の検出状況については、http://idsc.nih.go.jp/iasr/prompt/graph-lj.html をご参照ください。

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