国立感染症研究所 感染症情報センター
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IDWR 感染症発生動向調査週報

第39号ダイジェスト
(2006年9月25〜10月1日)

 発生動向総覧


*2006年4月からの報告システムの変更に伴い、疾病の並び順を一部変更しました。

全数報告の感染症


〈第39週コメント〉10月5日集計分

注意:これはこれは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。宜しく御理解下さい。

*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。

1類感染症: 報告なし
2類感染症: コレラ2例〔感染地域:神奈川県1例、国内(都道府県不明)1例〕
細菌性赤痢21例(感染地域:石川県3例*、宮城県1例、鳥取県1例、中国4例、インド4例、タイ2例、インドネシア2例、モンゴル1例、パキスタン1例、モロッコ1例、グルジア1例)
*第38週の9例と同じ飲食店における集団発生
パラチフス1例(感染地域:中国)
3類感染症: 腸管出血性大腸菌感染症症症89例(うち有症者52例、HUS 2例)
感染地域:国内84例、中国4例、国内外不明1例
国内の多い感染地:東京都(8例)、宮崎県(8例)、愛知県(7例)
年齢群:10歳未満(27例)、10代(15例)、20代(18例)、30代(13例)、40代(8例)、50代(4例)、60代(1例)、70歳以上(3例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2(35例)、O157 VT2(29例)、O26 VT1(7例)、O157 VT1(3例)、O111 VT1・VT2(2例)、O145 VT1(2例)、O26 VT1・VT2( 2例)、O1 VT1(1例)、O103 VT1(1例)、O145 VT2(1例)、O165 VT2(1例)、その他/不明(5例)
4類感染症: E型肝炎1例〔感染地域:国内(都道府県不明)〕
A型肝炎3例〔感染地域:秋田県1例、国内(都道府県不明)1例、パキスタン1例〕
つつが虫病2例(感染地域:青森県1例、福島県1例)
デング熱2例(感染地域:タイ1例、インド1例)
日本脳炎1例(感染地域:熊本県.60代)
ブルセラ症1例(感染地域:長野県)
ボツリヌス症1例(乳児ボツリヌス症)
レジオネラ症11例 (肺炎型10例、ポンティアック型1例)
年齢群:40代1例、50代4例、60代1例、70代3例、80代2例
感染地域:愛知県2例(うち1例温泉)、岩手県1例(温泉)、福島県1例、東京都1例、富山県1例(温泉)、岐阜県1例、京都府1例、島根県1例、熊本県1例(温泉)、鹿児島県1例

5類感染症:
アメーバ赤痢 14例(腸管アメーバ症13例、腸管外アメーバ症1例)
感染地域:国内9例、タイ1例、韓国1例、米国1例、タイ/ベトナム1例、東南アジア1例
感染経路:経口5例、性的接触4例(異性間1例、同性間2例、異性間・同性間不明1例)、不明5例
ウイルス性肝炎3例 B型1例〔感染経路:性的接触(異性間)〕
C型2例(感染経路:鋭利なものの刺入1例、不明1例)
急性脳炎2例(ともに病原体不明.0歳、18歳)
クリプトスポリジウム症1例(感染地域:国内)
クロイツフェルト・ヤコブ病2例(ともに孤発性プリオン病古典型)
劇症型溶血性レンサ球菌感染症1例(血清型:A群、60代)
後天性免疫不全症候群21例 (無症候12例、AIDS 8例、その他1例)
感染地域:国内16例、タイ1例、国外(国不明)1例、国内・国外不明3例
感染経路:性的接触18例(異性間7例、同性間8例、異性間/同性間1例、異性間・同性間不明2例)、不明3例
梅毒5例(早期顕症I期1例、早期顕症II期2例、晩期顕症1例、無症候1例)
破傷風1例(90代)
(補)他に報告遅れとして、細菌性赤痢2例(感染地域:中国1例、疑似症1例)、腸チフス1例(感染地域:インドネシア)などの報告があった。


定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)

全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
過去5年間の同時期との比較

インフルエンザ:定点当たり報告数は微増した。都道府県別では沖縄県(0.10)、宮崎県(0.07)、岐阜県(0.05)が多い。

小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症は128例の報告があり、報告数は増加した。年齢別では、1歳以下の報告数が全体の約70%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は3週連続して減少したが、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してかなり多い。都道府県別では大分県(0.97)、秋田県(0.83)、長野県(0.80)、三重県(0.80)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い状態が続いている。都道府県別では福島県(2.5)、鳥取県(2.3)、北海道(2.2)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では熊本県(6.8)、大分県(6.4)、静岡県(6.1)が多い。水痘の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では宮崎県(1.5)、群馬県(1.2)、徳島県(1.2)が多い。手足口病の定点当たり報告数は3週連続して減少した。都道府県別では新潟県(3.5)、石川県(3.1)、長野県(2.8)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では宮城県(0.49)、岐阜県(0.47)、宮崎県(0.46)が多い。百日咳の定点当たり報告数は2週連続で増加し、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では徳島県(0.16)、千葉県(0.11)、岐阜県(0.06)、和歌山県(0.06)が多い。風しんの定点当たり報告数は微増した。都道府県別では山梨県(0.13)、岡山県(0.07)、香川県(0.06)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は第28週以降、減少が続いている。都道府県別では宮城県(0.77)、北海道(0.55)、福島県(0.35)が多い。麻しんの定点当たり報告数は横ばいであった。都道府県別では兵庫県から2例(0.02)、東京都(0.01)、神奈川県(0.01)から各1例ずつの報告である。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では新潟県(3.7)、鹿児島県(2.8)、宮崎県(2.3)が多い。

基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では大阪府(2.3)、埼玉県(1.7)、富山県(1.6)が多い。成人麻しんは沖縄県から2例の報告があった。



 注目すべき感染症

◆ 流行性耳下腺炎

流行性耳下腺炎(mumps:ムンプス)は、2〜7歳の児を中心とした小児に好発する疾患である(図1)。2〜3週間の潜伏期(平均18日前後)を経て発症し、片側あるいは両側性の唾液腺(耳下腺が最も多い)の有痛性腫脹を特徴とするウイルス感染症である。不顕性感染が3分の1程度認められ、発症しても、通常は1〜2週間で軽快する予後良好の疾患であるが、無菌性髄膜炎をはじめ、髄膜脳炎、難聴、睾丸炎、卵巣炎、膵炎等の種々の合併症を起こす場合がある。感染経路はヒト−ヒト間の飛沫感染、接触感染であり、特に保育所等、ムンプスウイルスに免疫を持たない乳幼児の施設では、しばしば集団発生が認められている。また成人での発症例では、髄膜炎、精巣炎、熱性痙攣、難聴、膵炎などの合併症によって入院する例が比較的多い。

図1. 流行性耳下腺炎の報告症例の年別・年齢群別割合(2000年〜2006年第39週) 図2. 流行性耳下腺炎の年別・週別発生状況(1996年〜2006年第39週) 図3. 流行性耳下腺炎の年別発生状況(2000〜2005年)

流行性耳下腺炎の1982年以降の週別定点当たり報告数をみると、1980年代は3〜4年周期で大きな流行を繰り返していたが、1990年代はピークが低くなり、2000年代に入るとピークがやや高くなる傾向にある(図2)。これは、MMRワクチンを含めたムンプス関連ワクチンの接種率に関係しているものと思われる。2000〜2005年の年別累積報告数をみると、2004年、2005年と2年連続して増加がみられているが(図3)、2006年についても、第39週までの累積報告数は163,678と、2005年の同時期(135,422)を大きく上回っており、2002年以降では最多である。過去10年間との週別比較においても、そのことが推測される(図4)。
図4. 流行性耳下腺炎の年別・週別発生状況(1996年〜2006年第39週) 図5. 流行性耳下腺炎の都道府県別報告状況(2006年第1〜39週) 図6. 主要都道府県に置ける流行性耳下腺炎の週別推移(2006年第1〜39週)

都道府県別にみると、2006年第1〜39週の定点当たり累積報告数では鹿児島県(152.2)、長野県(127.9)、鳥取県(106.2)、新潟県(105.9)、沖縄県(101.9)の順であるが(図5)、最近は特に、新潟県からの報告の増加が目立っている(図6)。
国内における流行性耳下腺炎の発生は相変わらず高いレベルが続いており、また、2006年は周期的な流行のピークにあたる可能性がある。今後とも、流行地域を中心とした本疾患の流行状況、発生動向には注意が必要である。


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