国立感染症研究所 感染症情報センター
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IDWR 感染症発生動向調査週報

第35号ダイジェスト
(2006年8月28日〜9月3日)

 発生動向総覧


*2006年4月からの報告システムの変更に伴い、疾病の並び順を一部変更しました。

全数報告の感染症


〈第35週コメント〉9月7日集計分

注意:これはこれは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。宜しく御理解下さい。

*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。

1類感染症: 報告なし
2類感染症: コレラ2例(感染地域:フィリピン1例.疑似症1例)
細菌性赤痢12例(感染地域:中国3例、インド2例、モンゴル2例、バングラデシュ1例、ベトナム1例、インドネシア1例.疑似症2例)
パラチフス1例(感染地域:ミャンマー/タイ)
3類感染症: 腸管出血性大腸菌感染症症257例(うち有症者185例、HUS 4例)
感染地域:国内256例、韓国1例
国内の多い感染地:富山県(71例)、宮崎県(28例)、岩手県(11例)
年齢群:10歳未満(154例)、10代(26例)、20代(21例)、30代(21例)、40代(11例)、50代(9例)、60代(10例)、70歳以上(5例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2( 139例)、O26 VT1( 57例)、O157 VT2(41例)、O111 VT1(4例)、O157 VT1(3例)、O26 VT1・VT2(2例)、O18 VT1・VT2(1例)、O26 VT2(1例)、O111 VT1・VT2(1例)、O121 VT2(1例)、その他/不明(7例)
4類感染症: E型肝炎1例〔感染地域:国内(都道府県不明)、感染源:不明〕
A型肝炎6例〔感染地域:徳島県1例、福岡県1例、長崎県1例、国内(都道府県不明)2例、インド1例〕
つつが虫病1例(感染地域:長崎県)
デング熱1例(感染地域:フィリピン)
日本紅斑熱3例(感染地域:愛媛県2例、鹿児島県1例)
日本脳炎1例(感染地域:高知県.40代)
マラリア 5例 卵形1例_感染地域:ウガンダ
熱帯熱3例_感染地域:ナイジェリア1例、マリ1例、中央アフリカ1例
原虫種不明1例_感染地域:インドネシア
ライム病2例(感染地域:北海道1例、新潟県1例)
レジオネラ症6例 (全て肺炎型)
年齢群:40代1例、50代2例、60代1例、70代2例
感染地域:栃木県1例(温泉)、石川県
レプトスピラ症1例(感染地域:熊本県)

5類感染症:
アメーバ赤痢 8例(腸管アメーバ症6例、腸管外アメーバ症2例)
感染地域:国内7例、東南アジア1例
感染経路:経口1例、性的接触2例(ともに異性間)、不明5例
ウイルス性肝炎3例〔すべてB型_感染経路:性的接触2例(ともに異性間・同性間不明)、不明1例〕
クロイツフェルト・ヤコブ病3例(すべて孤発性プリオン病古典型)
劇症型溶血性レンサ球菌感染症1例(血清群:A群.80代)
後天性免疫不全症候群 20例(無症候10例、AIDS 7例、その他3例)
感染地域:国内17例、タイ1例、国外(国不明)1例、国内・国外不明1例
感染経路:性的接触19例(異性間10例、同性間8例、異性間・同性間不明1例)、不明1例
ジアルジア症4例 (感染地域:国内2例、バングラデシュ1例、マーシャル諸島1例)
髄膜炎菌性髄膜炎1例(感染地域:国内)
梅毒4例(早期顕症I期2例、早期顕症II期1例、無症候1例)
破傷風3例(50代1例、60代1例、70代1例)
バンコマイシン耐性腸球菌感染症1例(遺伝子型:不明、菌検出検体:尿)
ジアルジア症2例(感染地域:国内1例、台湾1例)
梅毒8例(早期顕症I期2例、早期顕症II期2例、無症候4例)
破傷風4例(50代1例、60代2例、70代1例)
(補)他に報告遅れとして、細菌性赤痢3例(感染地域:中国1例、カンボジア1例、ベトナ ム1例)、エキノコックス症1例(多包条虫.感染地域:北海道)、レジオネラ症1例〔肺炎型.感染地域:岡山県(温泉)〕、急性脳炎1例(病原体不明.4歳)、劇 症型溶血性レンサ球菌感染症2例〔40代1例、60代1例(死亡).血清群:A群1例、不明1例〕、バンコマイシン耐性腸球菌感染症2例(遺伝子型:VanC 1例、菌検出検体:血液.遺伝子型:不明 1例、菌検出検体:尿)などの報告があった。


定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)

全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
過去5年間の同時期との比較

インフルエンザ:定点当たり報告数は減少した。都道府県別では沖縄県(0.34)、茨城県(0.08)、宮崎県(0.05)が多い。

小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症は68例の報告があり、報告数は横ばいであった。年齢別では、1歳以下の報告数が全体の74%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は第31週以降、減少が続いているが、過去5年間の同時期(前週、当該週、後週)と比較してかなり多い状態が続いている。都道府県別では高知県(1.9)、長野県(1.9)、宮崎県(1.4)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は微増し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では鳥取県(1.3)、宮崎県(1.3)、大分県(1.2)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は2週連続して増加し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では鳥取県(6.6)、福井県(6.1)、宮崎県(5.9)、大分県(5.6)が多い。水痘の定点当たり報告数は第32週以降、減少が続いている。都道府県別では大分県(1.25)、徳島県(1.11)、宮崎県(0.86)が多い。手足口病の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では新潟県(5.1)、長野県(4.7)、石川県(4.0)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では長崎県(0.73)、宮崎県(0.70)、岐阜県(0.65)が多い。百日咳の定点当たり報告数は横ばいであった。都道府県別では栃木県(0.07)、岐阜県(0.06)が多い。風しんの定点当たり報告数は減少した。都道府県別では徳島県(0.05)、長野県(0.02)、愛知県(0.01)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は第28週以降、減少が続いている。都道府県別では秋田県(1.8)、北海道(1.8)、青森県(1.6)が多い。麻しんの定点当たり報告数は減少した。都道府県別では茨城県(0.01)、神奈川県(0.01)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は第31週以降、減少が続いている。都道府県別では新潟県(3.3)、鹿児島県(2.7)、大分県(2.7)が多い。

基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎の定点当たり報告数は増加し、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では大阪府(2.0)、沖縄県(1.4)、群馬県(1.4)が多い。



 注目すべき感染症

◆ 腸管出血性大腸菌感染症

2006年の腸管出血性大腸菌感染症の報告数は第15週(27例)から増加が認められ、第20週 (59例)に50例を超え、第21〜25週は80例前後で推移した。第26〜29週は140例前後で推移し た後、第30週(237例)には200例を超えた。第31〜33週は156〜192例であったが、第34週は 216例と再び200例を越え、第35週は257例と本年最多であった。本年第35週までの累積報告 数は2,553例であるが、今までのところ例年(2000年2,268例、2001年3,534例、2002年2,452例、 2003年1,701例、2004年2,648例、2005年2,406例)と比べ、特に多いとは言えない(図1)。

図1. 腸管出血性大腸菌感染症(無症状病原体保有者含む)の年別・週別発生状況 図2. 腸管出血性大腸菌感染症の都道府県別報告・感染状況(2006年第35週) 図3. 腸管出血性大腸菌感染症の都道府県別報告状況(2006年第1〜35週)

第35週に診断された257例についてみると、報告の多かった都道府県は富山県(72例)、宮 崎県(28例)、大阪府(12例)、岩手県(11例)であった(図2a)。また2006年4月から、国内を感染 地域とする場合に、県名などの詳細情報を届け出るようになったが、第35週に感染地域として多 かった都道府県は、報告の都道府県とほぼ同様で、富山県(71例)、宮崎県(28例)、岩手県 (11例)であった(図2b)。そのうち富山県の71例は保育施設に関連した集団発生であり、また宮 崎県の9例は第33、第34週診断分として報告された9例とともに、保育施設に関連した集団発生 である。さらに、国外を感染地域とするものが1例(韓国)みられた。性別では男性125例、女性 132例であり、年齢階級別(10歳毎)では0〜9歳(154例)が最も多く、60%を占めた。また有症 状者は185例で、無症状病原体保有者が72例であった。無症状病原体保有者は、食品産業従 事者の定期検便によって発見される場合もあるが、多くは探知された患者と食事を共にした者 や、接触者の調査などによって発見される場合が多い。分離された菌の血清型・毒素型別で は、O157 VT1・VT2(139例)、O26 VT1(57例)、O157 VT2(41例)の順に多かった。
第1〜35週の累積報告数2,553例についてみると、報告の多かった都道府県は、大阪府(210例)、東京都(167例)、愛知県(140例)、福岡県(130例)、神奈川県(119例)である(図3)。性別では男性1,219例、女性1,334例であり、年齢階級別(10歳毎)では0〜9歳(1,102例)が最も多く、43%を占めている。性別・年齢群別にみると、0〜9歳及び10〜19歳では男性が女性より多く、それ以上の年齢群では女性が男性より多い。
図4. 腸管出血性大腸菌感染症の性別・年齢群別・症状の有無別報告数(2006年第1〜35週)

また有症状者は1,709例(67%)で、無症状病原体保有者が844例である。性別・年齢群別に症状の有無をみると、30代、40代の男性、および30代、40代、50代の女性では無症状病原体保有者が多く、50代男性では有症状者と無症状病原体保有者が同数であり、それ以外では有症状者が多い(図4)。分離された菌の血清型・毒素型は、O157 VT1・VT2(1,123例)、O26 VT1(541例)、O157 VT2(521例)の順に多かった。

溶血性尿毒症症候群(HUS)は報告遅れ分や追加報告を含み、第35週に5例の報告があり、累積では64例となった(図4)。2006年4月からHUS発症例の届出は、病原体の分離ができない症例であっても、便から直接のベロ毒素の検出や、血清抗体の検出によって届出対象となった。上記の64例のうち、便から直接のベロ毒素の検出によるものが1例、血清抗体の検出によるものが16例届け出られた。死亡については、第35週までに3例の報告があった。しかし、HUSなどの合併症や死亡については、届け出時点以降での発生が十分反映されていない可能性があり、発生があった場合の追加・修正報告をお願いしている。

2006年も保育施設での集団発生が相次いで見られている他、飲食店や展示動物に関連した集団発生もみられている。今後も発生の多い状況が続くと予想され、その発生動向には注意が必要である。食品の取り扱いには十分注意して食中毒の予防を徹底するとともに、手洗いの励行などにより、ヒトからヒトへの二次感染を予防することが大切である。また保育施設においては、特にオムツ交換時の手洗い、園児に対する食前の手洗い、排便後の手洗い指導を徹底する必要がある。

◆ RSウイルス感染症

RSウイルス感染症(respiratory syncytial virus infection)は、病原体であるRSウイルスが感染者の鼻汁、喀痰などから接触感染あるいは飛沫感染により伝播し、上気道炎、気管・気管支炎、細気管支炎、肺炎を起こす疾患である。1歳までに50〜70%、3歳までにすべての小児がRSウイルスの初感染を受ける。その後、年長児や成人での再感染が普遍的にみられるため、年齢を問わず発症するが、特に乳幼児において重要な疾患である。乳幼児の肺炎の約50%、細気管支炎の50〜90%に関与するとされている。乳児では母体からの移行抗体が存在するにもかかわらず、生後数週間から数カ月の時期に感染すると重篤な症状を引き起こす。年長児や成人では重症となることは滅多にない。治療法として特異的なものはなく、基本的には酸素投与、輸液、呼吸管理などの対症療法である。予防としては現在実用化されているワクチンはなく、研究段階である。しかし、遺伝子組み換え技術による抗体製剤が認可されており、流行期に、早産児や慢性肺疾患を有する小児などのハイリスク児に対して、予防的な投与が考慮される。

本疾患の発生動向については、感染症法改正(2003年11月5日施行)により感染症法の対象疾患となり、全国約3,000の小児科定点医療機関から毎週報告されている。臨床症状のみでの診断は不可能であることから、届出基準としてウイルスの分離・同定、迅速診断キットによる抗原の検出、あるいは血清抗体の検出(中和反応または補体結合反応)による病原検査が必須とされている。しかし、臨床現場において最も簡便な迅速診断キット検査は、保険適用が3歳未満の入院例に限定されているので、届出がなされていない本症例も多いと考えられる。

感染症発生動向調査における報告数の年次推移をみると、2005年は2004年に比して増加がみられている。しかし、これが本疾患の発生の増加を反映しているのか、診断率・報告率の向上を反映しているのかの判断はできない。

図1. RSウイルス感染症の年別・週別発生状況

図2. RSウイルス感染症の報告症例の年別・年齢群別割合(2004〜2005年)

時期的には、過去2年間の状況では第36、37週(9月中旬)から徐々に増加し始め、第50、51週(12月半ば)にピークとなり、その後4月頃までゆっくりと減少している(図1)。また、夏季にもわずかながら報告がみられている。性別では、2004年は男性55%、女性45%、2005年は男性56%、女性44%で、男性がやや多い。年齢群別では、0歳が約50%(2004年52%、2005年47%)、1歳が約30%(2004年26%、2005年28%)、2歳が約10%(2004年10%、2005年12%)であり、2歳以下が全体の約90%を占めていた(図2)。

過去2年間における報告数の推移からは、本年もまもなく発生が増加し始めることが予想され、今後の発生動向には注意が必要である。また、抗体製剤投与の上でも流行時期の把握は重要であるので、それぞれの地域における詳細な最新の流行状況については、各都道府県の地方感染症情報センターからの情報を参考にしていただきたい。


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