国立感染症研究所 感染症情報センター
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IDWR 感染症発生動向調査週報

第31号ダイジェスト
2006年第31週(7月31日〜8月6日)

 発生動向総覧


*2006年4月からの報告システムの変更に伴い、疾病の並び順を一部変更しました。

全数報告の感染症


〈第31週コメント〉8月10日集計分

注意:これはこれは当該週に診断された報告症例の集計です。しかし、迅速に情報還元するために期日を決めて集計を行いますので、当該週に診断された症例の報告が集計の期日以降に届くこともあります。それらについては発生動向総覧では扱いませんが、翌週あるいはそれ以降に、巻末の表の累積数に加えられることになります。宜しく御理解下さい。

*感染経路、感染原因、感染地域については、確定あるいは推定として記載されていたものを示します。

1類感染症: 報告なし
2類感染症: コレラ1例(感染地域:インドネシア)
細菌性赤痢7例(感染地域:インド3例、カンボジア2例、中国1例、インドネシア1例)
腸チフス2例(感染地域:愛媛県1例、ポルトガル1例)
パラチフス1例(感染地域:インド.細菌性赤痢と重複感染)
3類感染症: 腸管出血性大腸菌感染症症145例(うち有症者89例、HUS 4例)
感染地域:国内144例、モンゴル1例
国内の多い感染地:福岡県(19例)、大阪府(13例)、岐阜県(10例)
年齢群:10歳未満(66例)、10代(13例)、20代(23例)、30代(16例)、40代(7例)、50代(10例)、60代(5例)、70歳以上(5例)
血清型・毒素型:O157 VT1・VT2(71例)、O26 VT1(29例)、O157 VT2( 26例)、O103 VT1( 2例)、O165 VT2( 2例)、O126 VT1・VT2(1例)、O111 VT1・VT2(1例)、O111 VT1(1例)、O157 VT1(1例)、その他/不明(11例)
4類感染症: A型肝炎1例〔感染地域:国内(都道府県不明)〕
デング熱2例(感染地域:タイ1例、ベトナム1例)
マラリア1例(熱帯熱_感染地域:ナイジェリア)
レジオネラ症 22例 (肺炎型21例、ポンティアック型1例)
年齢群:30代1例、50代8例、60代7例、70代5例、80代1例
感染地域:東京都4例(温泉1例)、新潟県3例(温泉1例)、茨城県2例、静岡県2例(温泉1例)、滋賀県2例、福島県1例、神奈川県1例、大阪府1例、島根県1例、広島県1例(温泉)、沖縄県1例(温泉)、国内(都道府県不明)3例
5類感染症:
アメーバ赤痢 7例 (すべて腸管アメーバ症)
感染地域:国内6例、国外(国不明)1例
感染経路:性的接触(異性間)1例、不明6例
ウイルス性肝炎2例 B型1例(感染経路:不明)
C型1例(感染経路:不明)
クリプトスポリジウム症2例(感染源:ともに牛)
クロイツフェルト・ヤコブ病7例(すべて孤発性プリオン病古典型)
劇症型溶血性レンサ球菌感染症1例(血清群:A群.60代)
後天性免疫不全症候群 13例(無症候7例、AIDS 4例、その他2例)
感染地域:国内11例、国外(国不明)2例
感染経路:性的接触9例(異性間3例、同性間5例、不明1例)、不明4例
ジアルジア症1例(感染地域:ギリシア)
梅毒5例(早期顕症I期2例、早期顕症II期3例)
破傷風2例(70代1例、80代1例)
(補)他にレジオネラ症1例の報告があったが削除予定。また報告遅れとして、E型肝炎1例(感染地域:ネパール、感染源:不明.A型肝炎と重複感染)、ブルセラ症1例(感染地域:エジプト)、急性脳炎1例(病原体不明.2歳)、劇症型溶血性レンサ球菌感染症1例(血清群:G群.50代、死亡)、バンコマイシン耐性腸球菌感染症1例(遺伝子型:VanB_菌検出検体:血液)などがみられた。


定点把握の対象となる5類感染症(週報対象のもの)

全国の指定された医療機関(定点)から報告され、疾患により小児科定点(約3,000 カ所)、インフルエンザ(小児科・内科)定点(約5,000 カ所)、眼科定点(約600 カ所)、基幹定点(約500 カ所)に分かれています。また、定点当たり報告数は、報告数/定点医療機関数です。
過去5年間の同時期との比較

インフルエンザ:定点当たり報告数は第22週以降、減少が続いている。都道府県別では沖縄県(1.05)、宮崎県(0.67)、長崎県(0.21)が多い。

小児科定点報告疾患:RSウイルス感染症は59例の報告があり、報告数は減少した。年齢別では、1歳以下の報告数が全体の73%を占めている。咽頭結膜熱の定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期と比較してかなり多い状態が続いている。都道府県別では宮崎県(2.9)、奈良県(2.1)、三重県(2.1)、長野県(2.1)が多い。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の定点当たり報告数は第25週以降、減少が続いているが、過去5年間の同時期と比較してやや多い。都道府県別では三重県(1.6)、福島県(1.4)、徳島県(1.3)が多い。感染性胃腸炎の定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では福井県(7.6)、宮崎県(6.1)、大分県(5.9)が多い。水痘の定点当たり報告数は増加した。都道府県別では群馬県(1.9)、新潟県(1.8)、青森県(1.7)が多い。手足口病の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では福井県(14.8)、長野県(4.8)、栃木県(4.6)が多い。伝染性紅斑の定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期と比較してかなり多い状態が続いている。都道府県別では新潟県(0.89)、京都府(0.86)、山形県(0.83)が多い。百日咳の定点当たり報告数は微減した。都道府県別では栃木県(0.09)、千葉県(0.07)、岩手県(0.05)が多い。風しんの定点当たり報告数は横ばいであった。都道府県別では滋賀県(0.06)、茨城県(0.03)、大分県(0.03)が多い。ヘルパンギーナの定点当たり報告数は第28週以降、減少が続いている。都道府県別では北海道(4.7)、青森県(4.2)、長野県(3.8)、宮城県(3.8)が多い。麻しんの定点当たり報告数は増加した。都道府県別では長崎県(0.05)、広島県(0.04)が多い。流行性耳下腺炎の定点当たり報告数は減少した。都道府県別では鹿児島県(4.5)、新潟県(4.1)、宮城県(3.0)、長野県(3.0)が多い。

基幹定点報告疾患:マイコプラズマ肺炎のの定点当たり報告数は減少したが、過去5年間の同時期と比較してかなり多い。都道府県別では大阪府(1.7)、青森県(1.3)、沖縄県(1.1)、群馬県(1.1)が多い。成人麻しんは1例(北海道)の報告があった。
(補)岩手県からの麻しん報告は取り消し予定である。



 注目すべき感染症

◆ 腸管出血性大腸菌感染症

2006年の腸管出血性大腸菌感染症の報告数は第15週(27例)から増加が認められ、第20週(59例)に50例を超え、第21〜25週は80例前後で推移した。その後第26週(137例)に100例を超え、第27〜29週は130例代で推移し、第30週(228例)はさらに増加して200例を超えたが、第31週は145例とやや減少した。本年第31週までの累積報告数は1,683例であるが、今までのところ例年(2000年1,561例、2001年2,406例、2002年1,752例、2003年1,205例、2004年1,755例、2005年1,707例)と比べ、多いとは言えない(図1)。

図1. 腸管出血性大腸菌感染症(無症状病原体保有者含む)の年別・週別発生状況 図2. 腸管出血性大腸菌感染症の都道府県別報告・感染状況(2006年第31週) 図3. 腸管出血性大腸菌感染症の都道府県別報告状況(2006年第1〜31週)

第31週に診断された145例についてみると、報告の多かった都道府県は福岡県(19例)、大阪府(15例)、岐阜県(10例)であった(図2a)。そのうち福岡県の13例、岐阜県の9例は第30週に続き、ともに保育関係施設に関連する集団発生である。また、2006年4月から、国内を感染地域とする場合に、県名などの詳細情報を届け出るようになったが、第31週に感染地域として多かった都道府県は、報告の都道府県とほぼ同様で、福岡県(19例)、大阪府(13例)、岐阜県(10例)であった(図2b)。また、国外(モンゴル)を感染地域とするものが1例あった。性別では男性67例、女性78例であり、年齢階級別(10歳毎)では0〜9歳(66例)が最も多く、46%を占めた。また有症状者は89例で、無症状病原体保有者が56例であった。無症状病原体保有者は、食品 産業従事者の定期検便によって発見される場合もあるが、多くは探知された患者と食事を共にした者や、接触者の調査などによって発見される場合が多い。分離菌の血清型・毒素型別では、O157 VT1・VT2(71例)、O26 VT1(29例)、O157 VT2(26例)の順に多かった。
第1〜31週の累積報告数1,683例についてみると、報告の多かった都道府県は、大阪府(151例)、東京都(122例)、愛知県(100例)、福岡県(96例)、群馬県(94例)である(図3)。性別では男性799例、女性884例であり、年齢階級別(10歳毎)では0〜9歳(686例)が最も多く、41%を占めている。性別・年齢群別にみると、0〜9歳及び10〜19歳は男性が女性より多く、それ以上の 年齢群では女性が男性より多い。また有症状者は1,122例(67%)で、無症状病原体保有者が561例である。性別・年齢群別に症状の有無をみると、男女ともに、30〜50代では無症状病原体保有者が多く、それ以外では有症状者が多い(図4)。分離菌の血清型・毒素型では、O157 VT1・VT2(710例)、O26 VT1(353例)、O157 VT2(351例)の順に多かった。
図4. 腸管出血性大腸菌感染症の性別・年齢群別・症状の有無別報告数(2006年第1〜31週)

溶血性尿毒症症候群(HUS)は報告遅れ分や追加報告を含み、第31週に6例の報告があり、累積では45例となった。2006年4月からHUS発症例の届出は、病原体の分離ができない症例であっても、便から直接のベロ毒素の検出や、血清抗体の検出によって届出対象となった。43例のうち、便から直接のベロ毒素の検出によるものが1例、血清抗体の検出によるものが10例届け出られた。死亡については、第31週までに3例の報告があった。しかし、HUSなどの合併症や死亡については、届け出時点以降での発生が十分反映されていない可能性があり、発生があった場合の追加・修正報告をお願いしている。
2006年も保育施設での集団発生が散見されている他、飲食店や展示動物に関連した集団発生もみられている。今後も発生の多い状況が続くと予想され、その発生動向には注意が必要である。食品の取り扱いには十分注意して食中毒の予防を徹底するとともに、手洗いの励行などにより、ヒトからヒトへの二次感染を予防することが大切である。また保育施設においては、特にオムツ交換時の手洗い、園児に対する食前の手洗い指導を徹底し、簡易プールなどの衛生管理にも注意を払う必要がある。

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