(掲載日 2011/10/25)
<速報>小児におけるマクロライド高度耐性・肺炎マイコプラズマの大流行

1. マイコプラズマ感染症の特徴と診断
Mycoplasma pneumoniae (マイコプラズマ)感染症は、幼児期から学童期にみられるポピュラーな感染症であり、急性気管支炎や肺炎が主な疾患である。15歳以下の入院肺炎例(903例)の原因微生物を網羅的に調べた私どもの成績では、マイコプラズマ肺炎は細菌感染症の19.2%を占め、平均年齢は6.5歳(2〜12歳)である。

マイコプラズマ感染症は,i)学童期に多いこと、ii)38℃台の高熱と乾性咳嗽が強いこと、iii)血液検査所見としては WBCは10,000 cells/μl以下、CRPは5 mg/dl以下の場合が多い。血沈(ESR)は亢進していることが多い。

マイコプラズマは一般細菌と異なって培養が難しく、しかも時間を要するため、培養検査はほとんど実施されなくなっている。ペア血清による抗体価上昇の確認のほかに、現在ではIgM抗体検査(キット)あるいはPCR法による迅速検査が行われるようになっている。しかし、検出感度と精度の点ではPCR法がはるかに優れている。

2. マクロライド(ML)耐性菌の出現と急速な増加
図1には2002年から継続してきた私どもの疫学成績を示す。世界で初めて臨床例からML耐性菌を分離したのは岡崎ら(2000年)で、私どもでは翌々年に小児肺炎例から耐性菌を分離した。その後の経年的耐性化状況をみると、マイコプラズマの流行年に耐性率が上昇してきていることが判る。

特に、本年は春先からマイコプラズマが流行していたが、学童の夏休み期間中はやや減少したものの2学期以降再び増加し、しかもML耐性菌の割合が90%に達する状況に至っている。この耐性化は全国規模でみられているが、ひとたびあるクラスで発症者がでると、潜伏期間や咳嗽の強さもあって瞬く間に周囲へ拡散している。

3. マクロライド(ML)高度耐性菌とその耐性メカニズム
図2には、最近3年間に分離したマイコプラズマのMLおよびミノサイクリン(MINO)の感受性成績を示す。

ML耐性菌は、エリスロマイシン(EM)、 クラリスロマイシン(CAM)、 そしてアジスロマイシン(AZM)等に、明らかに高度耐性化している。以前は優れた臨床効果がみられたML投与にもかかわらず、その効果がみられない遷延化例や重症化例が増えているのはこのためである。その他のML薬もすべて交叉耐性を示すので、マイコプラズマそのものには無効のはずである。

ML耐性化の原因は、その作用標的である23S rRNA遺伝子のdomainVにおける変異である。最も多くみられる変異は、2063番目のアデニン(A)のグアニン(G)への変異、その他に2064番目のAがGへ変異した株等も認められている。

4. ML耐性マイコプラズマ感染症の治療の実態(5施設共同)
現在、ML以外にマイコプラズマ感染症に適応があるのはミノサイクリン(MINO)である。本薬に耐性菌は認められていないが、抗菌力が非常に優れているというわけではない(図2)。

しかし実際にはマイコプラズマ感染症と診断してMLを処方したにもかかわらず、臨床症状が改善せずに結局入院加療となった患児には、多くの場合MINOを使用せざるを得ない状況となっている。確かに、MINO使用後には70%の例で24時間以内に解熱と症状が改善しているが、15%の例にはやむなくステロイドが使用されている。1週間以上の遷延化例では、各種炎症性マーカーの値が亢進している例が多い。しかし、ステロイドの併用は、LDHやフェリチンなどの検査値をみて慎重に判断する必要があろう。

5. まとめ
ML耐性マイコプラズマは世界的に出現し始め、近隣諸国においては耐性化が著しいと報告されている。

治療薬として臨床効果が期待できるのはMINOのみであるが、その添付文書には歯牙形成期にある8歳未満の小児に対する使用は、予測される副作用を上回る効果が期待できる場合のみとなっている。そのほかにも留意すべき副作用があるので、その使用は臨床効果が得られる最小期間にすべきであろう。私どもでの検査では、MINOの3日間投与で菌はほとんど消失していることを確認している。使用期間は通常3日長くても5日以内に留めたい。

補足であるが、最近、小児の耐性菌感染症用としてトスフロキサシン(TFLX)が認可されている。しかし、マイコプラズマへの適用は取得していない。当該感染症に使用するのであれば、そのエビデンスが必要となろう。

北里大学北里生命科学研究所病原微生物分子疫学研究室
生方公子 諸角美由紀
慶應義塾大学医学部感染制御センター 岩田 敏


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