(掲載日 2009/2/2)
<速報>2009年1月、仙台市・山形市・福岡市の医療機関で採取された検体から分離が続いているAH1亜型、AH3亜型、B型インフルエンザウイルスの今シーズンワクチン株からの抗原性の乖離について

今シーズン仙台市、山形市、福岡市の医療機関から寄せられたインフルエンザ様患者の臨床検体からMDCK細胞を用いて分離されたインフルエンザウイルスの抗原性を解析した結果、分離されたAH3亜型、AH1亜型、B型ウイルスのいずれにおいても抗原性がワクチン株と大きく異なっている傾向が見られるので、報告する。

昨(2008)年12月〜本(2009)年第4週半ばまでの3都市の医療機関の検体由来のインフルエンザウイルスの分離と抗原性
分離ウイルスに対する抗原性は、すべて国立感染症研究所(感染研)分与のワクチン株に対するフェレット抗血清と0.75%モルモット血球を用いた赤血球凝集抑制(HI)試験によっておこなった。

AH1亜型ウイルス:われわれのHI試験の系では感染研分与の抗血清に対するワクチン株抗原のホモ価は1:640である。これに対し、これまでの仙台の医療機関由来の分離ウイルス61株のほとんどが、1:80〜160とホモ価より2〜3管低く、中には1:40や1:20(各1株)と、大きくずれているものもあった。また、これまで分離された福岡の医療機関由来のウイルス11株もすべてHI価1:80であり、大きくずれていた。なお、これらは昨年のAH1亜型ワクチン株であるA/ソロモン株に対する抗血清に対してはまったく反応しない(1:<10)。

AH3亜型ウイルス:われわれのHI試験の系では感染研分与の抗血清に対するワクチン株抗原のホモ価は 1:1,280である。これに対し、これまで分離された仙台の6株中4株はHI価1:640で、今シーズンワクチン株であるA/Uruguay/716/2007に対する抗血清とよく反応しているが、2株は1:160、1:320と抗原性に若干のずれが生じている。一方、福岡の医療機関由来のウイルスでは、分離株8株のうち1株は1:80と大きなずれが認められたが、7株はほぼ抗原性が一致した。

B型ウイルス:われわれのHI試験の系では感染研分与の抗血清に対するワクチン株抗原のホモ価は、山形系統参照ウイルスであるB/Brisbane/3/2007に対する抗血清では1:2,560であり、Victoria系統ウイルスであるB/Malaysia/2506/2004に対する抗血清では1:5,120である。

これに対し、これまで分離された山形の医療機関由来のウイルスは5株あり、そのすべてが山形系統株であったが、その抗原性はHI価 1:320〜 640(それぞれ1株、4株)と、2〜3管のずれがあった。なお、これらはB型Victoria系統のB/マレーシアに対する抗血清にはまったく反応しなかった(1:<10)。

一方、福岡の医療機関由来の検体からはこれまでにB型ウイルス2株を分離している。2株ともVictoria系統であったが、いずれもHI価が80であり、標準株であるB/マレーシアと大きく変わっていた。なお、これらはB型山形系統のB/ブリスベンに対する抗血清にはまったく反応しなかった(1:<10)。

考 察
2009年第2週現在では、全国的にAH3亜型、AH1亜型、B型ウイルスの分離は、ほぼ2:2:1のようだが1) 、宮城県ではAH1亜型ウイルスの分離がほとんどであり、山形県も当初はAH3亜型とB型の分離が報告されていたが、最近ではAH1亜型の分離が主流となってきている。一方、われわれが本年第1週から開始した福岡市の医療機関由来のウイルス分離の成績からは、現在福岡市ではAH3亜型、AH1亜型、B型の流行の三つ巴状態が示唆されている。

こうした中、今後注意すべきと思われる点が二つあるので以下に述べる。

1.B型の流行:今回の解析で、山形と福岡という地理的に離れた地域での分離株が、それぞれ山形系統とVictoria系統に分かれていることが示された。その両方で標準株との抗原性の「ずれ」がかなり大きいことから、今シーズンの今後の流行の広がり方によっては、来シーズンの国内ワクチン株の選択に大きい影響を与えるので、ウイルス株サーベイランスがさらに重要となってくる。

2.AH1亜型ウイルスの抗原性に対する監視の意義:現在、日本でもオセルタミビル耐性の遺伝子を持ったウイルスが分離されたA/H1N1ウイルス株のほとんどを占めてきている2) ことが臨床の現場で大きな話題になっており、このため、A型インフルエンザに対するオセルタミビルの使用は、臨床現場では控えられる傾向にある。だが、現在のデータによれば、流行中のAH1亜型ウイルスの抗原性はワクチンの抗原性と一致しているため、ワクチン接種の有効性が期待されるとされている2) 。しかし、今回のわれわれの解析では、仙台でも福岡でも、必ずしもそうではないことが示唆された。よって、今後、インフルエンザの予防と治療を考える上で、全国レベルでのAH1亜型分離株の抗原性の調査に加えて、インフルエンザワクチンの臨床効果についての調査が必要であるとともに、薬剤耐性についても遺伝子型やNAの活性阻害剤抵抗性だけでなく、同薬剤が臨床的に無効なのかどうかについても早急に調査する必要性があると思われる。

参 考
1)国立感染症研究所ホームページ、インフルエンザ流行レベルマップ 2009年第2週
2)IASRインフルエンザ速報記事、http://idsc.nih.go.jp/iasr/rapid/pr3483.html

国立病院機構仙台医療センター臨床研究部ウイルスセンター
岡本道子 近江 彰 千葉ふみ子 伊藤洋子 西村秀一
同小児科 貴田岡節子 田澤雄作
同呼吸器内科 斉藤若奈 三木祐
永井小児科 永井幸夫、庄司内科 庄司 眞(以上仙台市)
勝島小児科 勝島史夫(山形市)
しばおクリニック 芝尾京子、しんどう小児科 進藤静生、高崎小児科 高崎好生、やました小児科 山下祐二(以上福岡市)


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