検査の結果、症状のあった5名全員からVibrio cholerae O1が分離され、旅行先のインドでの飲食が原因であったと推定された。
初発感染者から分離されたコレラ菌は血清型がO1稲葉型であった(表1, No.1)。しかし、次に検査したNo.2の分離株は血清型がO1小川型であったことから、今回の感染事例は稲葉・小川の混合感染であることが疑われた。そこでそれぞれの分離平板からさらに釣菌し、血清型を調べたところ、No.1については11株、No.2については10株を調べて、それぞれ小川、稲葉の血清に凝集するコレラ菌が検出された。他の3人の感染者の糞便は医療機関からの依頼を受けた検査機関で検査され、分離された株はNo.3はO1小川型、No.4はO1稲葉型、No.5はO1彦島型と報告された。しかし、CT遺伝子を検査するため、当所に搬入された分離菌について血清型を調べたところ、何れの株もO1稲葉型のみの凝集であった。最終的に今回のコレラ感染症はO1稲葉型・小川型の混合感染事例であると考えられた。
コレラ菌は現在、小川、稲葉の2抗原型に分けられ、彦島型は小川型の中に含まれる場合が多い。小川型のB抗原が脱落し、不可逆的に変異し稲葉型になるといわれている。今回の混合感染の場合、食品の中に既に小川・稲葉の2抗原型の菌が存在したのか、事例の中で変異して稲葉型が検出されたのか、興味深かった。
そこでこれら分離菌についてパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)を行い、遺伝子型別解析を試みた結果を図1に示した。小川型はNot IおよびSfi Iのいずれの制限酵素処理においても稲葉型と異なるパターンを示した。コレラ菌の場合、PFGEパターンは変異が少ないといわれていることから、本事例の分離株のPFGEにおいて、僅かではあるが異なるパターンがみられたことは、菌が事例半ばで変異したというより、食品が2抗原型のコレラ菌に汚染されていたことを示唆するものと考える。
今回の事例において最も憂慮すべきことは、帰国前に既にかなりの症状が現れていたにもかかわらず、申告することなく自宅へ戻っていることである。海外、とりわけ東南アジアにおいては感染症の危険があることを旅行会社や旅行者に、より周知徹底しなければならない。
富山県衛生研究所
磯部順子 木全恵子 清水美和子 嶋 智子 綿引正則