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Vol.17 (1996/10[200])

<国内情報>
石川県小松市立R中学校における腸管出血性大腸菌O118:H2による集団下痢症の発生


 平成8(1996)年7月15日,小松市教育委員会からR中学校で32名の欠席があり,登校生の58名が食中毒症状を訴えていると小松保健所へ連絡があり,また市内の病院から,R中学校の生徒1名が出血性腸炎で入院したと届出があった。

 保健所で患者の発生状況,給食の喫食状況等の調査とあわせて,生徒ならびに教職員全員について検便を実施するとともに,検食用の給食,水道水および給食施設等についても,食中毒起因菌の検索を行った。

 発症状況は,R中学校の生徒527名,教職員35名の計562名のうち,生徒245(発症率46%),教職員2内(発症率6%)の計247名が腹痛・下痢等の症状を訴え,その中の79名が医療機関を受診し,うち6名が入院した。有症者の発生時期は,7月10日〜19日であり,発症のピークは7月14日であった(図)。なお,発症率は学年による差異を認めなかった。患者の臨床症状は,腹痛(84%),下痢(52%),頭痛(35%)吐気(17%),発熱(14%),嘔吐(2%)等で,入院した6名(2%)に血便を認めた。

 市内の他の学校には下痢疾患者の発生はみられず,またR中学校の給食は自校調理方式であることから,原因として給食または水道水が疑われた。7月4日〜12日までの給食の喫食状況を調査したところ,7月4日の「ミルク食パン」,5日の「ちらし寿司」,「コールスローサラダ」,8日の「鶏肉とキュウリの辛味和え」および9日の「キュウリの酢の物」がカイ二乗検定により有意であった。しかし,検食用として保存されていた7月8日〜12日までの5日分の給食30品目について,食中毒起因菌検索を実施した結果,一部の食品から大腸菌を検出したが,腸管病原菌は検出されなかった。一方,給食施設内の調理台,冷蔵庫,まな板,包丁等の設備・器具についてふきとり検査を実施したところ,柄杓から大腸菌を検出したが,既知の腸管病原菌は陰性であった。一方,R中学校では上水道を使用しており,水道水,受水槽水およびプール水についても調査を行ったが,残留塩素が検出され,また施設等で問題となるところもなく,大腸菌群や腸管病原菌は検出されなかった。

 生徒および教職員を対象に,計525名(回収率93%)の検便を実施し,食中毒起因菌検索を行った結果,既知の腸管病原菌は検出されなかったが,有症者の糞便225検体から,各3株の大腸菌を分離し,それらの分離株について,RPLA法およびPCR法でVero毒素(VT)の検出を行ったところ,83検体(37%)からVT1およびその産生遺伝子を検出した。また同様に,健常者の糞便300検体中48検体(16%)からもVT1毒素産生性大腸菌を分離した(表)。この結果,本集団下痢症の原因菌を腸管出血性大腸菌と断定した。なお,検食から分離された大腸菌はVT産生が陰性であったが,給食施設内の柄杓のふきとり検査から分離された大腸菌は,VT1毒素を産生した。

 本菌は,市販の病原大腸菌免疫血清(O血清)には凝集が認められず,血清型を特定することができなかったので,国立予防衛生研究所細菌部にそれらの血清型別を依頼したところ,血清型がO118:H2の腸管出血性大腸菌(VT1陽性)との結果を得た。国内では,本菌による集団発生例および散発例はいまだ報告されていない。



石川県保健環境センター
芹川俊彦 本庄峰夫 小倉秀麿 西 正美
石川県小松保健所
吉田守孝 西村久博 佐野正博 琴坂幸広 高橋直邦 水腰久美子


表Vero毒素(VT1)
図1. 食中毒発症分布 検出状況





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