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Vol.17 (1996/9[199])

<国内情報>
インド・ネパール旅行者から検出されたShigella boydii provisional serotype E16553


 海外旅行者の増加に伴い赤痢の輸入例が増加している。また,既知血清型に該当しない新しい血清型のShigella spp. が検出される輸入症例も数多く報告されている。今回,インド・ネパール旅行者よりS. boydiiの新血清型E16553(R.J. Gross et al.,J. Clin. Microbiol.,16,1000-1002,1982)を検出したので報告する。

 患者は,1996年2月14日にネパールに入国1泊し,翌日インドに入国4泊の後,再びネパールで1泊し2月21日に帰国した。帰国時に関西空港検疫所で旅行中の下痢を申告し,診察を受けて検便を実施した。

 患者の問診では2月17日から1日に3〜4回の軟便を呈し,検疫時まで持続していた。診察時37.5℃の発熱があったが,腹痛,嘔吐は無かった。なお,喫食状況はレストラン,屋台で生野菜,果物,ヨーグルト等を喫食していた。

 検便の結果,生化学的性状がS. boydiiに近い菌株が分離された(次ページ表1)。また,Api20EではShigella spp.(確率;79.9%)を示した。血清学的検査では,生菌で市販(デンカ生研)の赤痢菌診断用血清のA1多価に強く,A多価に弱く凝集したが,型血清のいずれにも凝集しなかった。一方,加熱死菌では,多価血清には生菌と同様であったが,型血清のA8に弱く凝集を示した。しかし,マンニット(+)であることから,A群の性状と一致せず,東京都立衛生研究所に分離菌株の型別を依頼した。その結果,血清学的にS. boydiiの新血清型E16553に一致することが判明した。また,細胞侵入性遺伝子(inv E:PCR法)を保有することも確認された。以上の成績から本菌はS. boydii血清型E16553と同定された。

 新血清型の赤痢菌は海外帰国者から分離される頻度が高く,既知の血清型に該当しない菌株については慎重な検査が必要となる。



関西空港検疫所 上田泰史 橋本 智 矢野周作
大阪府立公衆衛生研究所 勢戸和子 宮田義人
東京都立衛生研究所 松下 秀


表1. 生化学的性状





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