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Vol.17 (1996/5[195])

<国内情報>
沖縄県におけるレプトスピラ症患者の血清型


 病原性レプトスピラ(Leptospira interrogans)はわが国に広く分布しているが,患者の発生は散発的に見られる。沖縄県は気候的に亜熱帯地域に属し,人以外の家畜や犬,猫および野生動物等からも病原体の分離報告があり,血清型の分布もわが国の他の地域とは異なった汚染形態を示している。今回,過去7年間に県内の医療機関でレプトスピラ症(以下レ症)と臨床診断され,当所に検査依頼のあった患者の菌分離,分離株の血清型別および血清学的検査を実施したので,その概要を報告する。

 1988年6月〜1995年5月までの7年間に県内8医療機関でレ症と臨床診断された患者51症例の菌分離および血清学的検査を行った。そのうち,40例については菌分離と抗体検査の両方,8例は菌分離のみ,3例は抗体検査のみをおこなった(表1)。血清学的検査は当所所見の既知レプトスピラ標準株14株(14血清型)を用いて顕微鏡的凝集反応(以下MAT)を行い,凝集抗体価が80倍以上のものを抗体陽性とし感染株の血清型とした。菌分離は各医療機関で血液培養をした血清加コルトフ培地からStuart培地に移し,1週間間隔で4代継代培養を行ない,暗視野顕微鏡下で菌体が確認されたものを菌分離陽性とした。また,分離株はその株を抗原として,当所所見の既知レプトスピラ免疫抗血清(14血清型)との間でMATを行い,対照の標準株と同等の凝集価が得られたものを分離株の血清型とした。

 検査を実施した51症例中,菌分離または抗体検査の結果から陽性と判定したものは35例(69%)であり,うち,菌分離と抗体の両方陽性が16例,菌分離のみ陽性が7例,抗体のみ陽性が12例であった。陽性35例の血清型の内訳は,kremastosが9例(26%)で最も多く,次いでcanicola5例(14%),hebdomadis,pyrogenes,rachmatiがそれぞれ3例(8.6%),autumnalis,javanicaがそれぞれ2例(5.7%),australis,castellonis,icterohaemorrhagiaeがそれぞれ1例(2.9%),未同定が5例(14%)あった(図1)。分離株23例の血清型は,kremastosが最も多く6例(26%),rechmati,canicolaがそれぞれ3例(13%),pyrogenes2例(8.7%),hebdomadis,australis,castellonis,icterohaemorrhagiaeがそれぞれ1例(4.3%)であった。また,2例についてはcanicolaとicterohaemorrhagiae,もう1例はcanicolaとcastellonisのそれぞれ2種類の免疫抗血清に対して同等の凝集価を示し,さらに2例は14血清型の免疫抗血清のいずれに対しても反応せず,以上の5例については未同定である(表2)。抗体陽性例の血清型もkremastosが8例(29%)と最も多く,canicola4例(14%),hebdomadis3例(11%),javanica,pyrogenes,autumnalisがそれぞれ2例(7.1%),rachmati,australis,castellonis,icterohaemorrhagiaeがそれぞれ1例(3.6%)であった。また,canicolaとicterohaemorrhagiaeの2種類の血清型に反応したものが2例,14血清型のいずれに対しても反応しないものも1例あった(表3)。

 今回,血清型ではkremastosが最も多く,他の地域とは異なる血清型の分布が見られた。また,分離株中3株は2種類の免疫抗血清に対して同等の凝集価を示し,2株は14血清型の免疫抗血清のいずれに対しても反応せず,これら5株については未同定であるが,現在,交差吸収試験や他の標準株等での血清型別の同定試験を検討中である。このことから,本県でこれまでに確認されているレプトスピラの血清型は8血清群,10血清型であるといわれているが,今後さらに新しい血清型が追加される可能性が示唆された。



沖縄県衛生環境研究所
大野 惇 大城直雅 久高 潤 安里龍二 徳村勝昌
沖縄県環境保健部 與那原良克
沖縄県立宮古病院 平良恵貴


表1 検査内訳
図1 血清型別同定結果
表2 分離株の血清型別
表3 血清学的検査成績





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