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Vol.16 (1995/11[189])

<国内情報>
咽頭結膜熱患者の結膜ぬぐい液からの麻疹ウイルス分離−大阪市


 大阪市結核・感染症サーベイランス患者情報によると,1995年第6週(2月)から第34週(8月)までの麻疹様患者発生数は,過去6年間で最も多かった(図1)。特に,第19週(5月初旬)以降の発生数が多く8月末までに約1,450名を数えた。これは,最近最も大きな流行があった1984年の大阪市内での患者発生数が同じ時期に1,430名であったことから,1995年も麻疹の大流行の年であると考えられる。

 1995年2月〜8月までの間に市内のサーベイランス定点病院からの血液や咽頭ぬぐい液などから,B95a細胞により38株の麻疹ウイルスを分離した。そのほとんどが麻疹様患者からの分離であったが,6月初め咽頭結膜熱を疑われた11歳患者(女児)の第6病日の結膜ぬぐい液と咽頭うがい液からウイルスを分離し,蛍光抗体法にて麻疹ウイルスと同定した。

 この患者は麻疹ワクチンは受けておらず,麻疹抗体(HI)価は<8倍であった。入院時の第5病日では目が開けられない状態にあり,角膜は点状表層角膜炎でウイルス性の感染症が疑われたが,ヘルペスによる所見は認められなかった。また,手足のしびれを訴えたが,翌日には軽減した。全身に麻疹様の発疹が認められたが,口腔内所見からは麻疹に特徴的なコプリック斑は観察されなかったので,ヘルパンギーナの重症例,コクサッキーウイルスあるいは真菌感染などを疑った。第8病日には無熱となったが,まだ目は開けられない状態で,皮膚の発疹は色素沈着してきた。第10病日では角膜点状混濁の消失,結膜炎所見も軽減し眼軟膏を中止し点眼薬のみとした。第13病日には退院した。なお,入院時の現症については前ページ表1に示した。

 咽頭結膜熱は夏かぜの代表的な疾患であり,夏期,特にプール水浴後の幼児,学童に多発する。その病原としてはアデノウイルス3型などが知られているが,この患者はこの時期にプールを使用したことはなかった。最近臨床的に麻疹と診断されなかった症例(上気道炎,ヘルパンギーナ,胃腸炎など)から多くの麻疹ウイルスが分離されている。麻疹患者の結膜上皮細胞での麻疹ウイルス抗原は検出されているが,咽頭結膜熱患者の結膜ぬぐい液から麻疹ウイルスが分離されたのは極めてまれであると考えられる。



中野こども病院 中村彰利
大阪市立環境科学研究所 村上 司
大阪市立大学医学部小児科 瀬戸俊之
大阪市立大学医学部医動物学教室 綾田 稔 小倉 壽


図1. 大阪市内における麻疹様患者
表1. 咽頭結膜熱患者の現症





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