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Vol.16 (1995/10[188])

<国内情報>
家族内感染が疑われたA型肝炎感染の1事例−佐賀県


 近年,衛生環境および衛生思想の向上からわが国のA型肝炎の大流行は少なく,そのためA型肝炎ウイルス(HAV)抗体の保有状況が低下し,40歳以下の年齢層における抗HAV抗体保有率は数%にすぎないと考えられている。しかし,感染症サーベイランス事業の患者報告でみると,毎年3〜4月をピークにして,1〜5月に散発事例が数多く報告されている。

 今回,佐賀県西南部において,A型肝炎を発病した父親から家族が二次感染した,と推定された事例に遭遇したので報告する。

 事例は平成6(1994)年1月下旬,旅行先から帰宅した33歳の父親がまず発病し,3週間後に33歳の母親が発病した。次いで,その数日後に2歳の娘,7歳の息子が発病し,ほぼ1カ月のうちに家族全員が医療機関を受診し入院した。

 検査材料は患者血清と糞便で,血清は肝機能検査等ならびにELISAによる抗HAV-lgGおよびlgM抗体の測定を行った。糞便は父親を除く3人で,10%便乳剤遠心上清を抗HAV抗体固相化プレートに加え反応後,HRPO結合標識抗体,酵素基質溶液を順次反応させ吸光度を測定するELISA(化血研)によりHAV抗原検出を行った。

 患者血清は4人すべて,GOT,GPT,LDHの著増とともに抗HAV-lgM抗体の陽性化がみられ,A型肝炎と診断された。患者糞便からのHAV抗原は,二次感染したと思われる母親と娘からは検出されたが,最後に発症した息子からは検出されなかった。患者は3〜5週間で合併症もなく軽快した。

 今回の事例は,最初に父親が発症し,その数週間後のほぼ同時期に家族が発症したこと,この家族が居住する地域に新たなA型肝炎の発生がなかったことから,父親から二次感染した家族内感染と考えられた。

 A型肝炎は感染症サーベイランス事業の患者報告によると,好発年齢に10歳前後と,40歳前後の2つのピークがあることから,今回の事例のような親から子へ,あるいは子から親へ,または家族が同時に感染する家族内感染はかなりあるのではないかと推定されている。またHAV感受性者が増加する一方で,小集団発生がみられることもあり,今後も監視していく必要があると考えられた。



佐賀県衛生研究所
船津丸貞幸 江頭泰子 田中知子1) 藤川攸心2) 梅崎信孝
佐賀県立病院好生館
石井榮一
白石共立病院
沖田信光
化学及血清療法研究所
尾堂浩一
  1)現所属:佐賀県立病院好生館 2)現所属:佐賀保健所





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