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Vol.16 (1995/10[188])

<国内情報>
埼玉県で発生したA型肝炎の集団発生について


 1995(平成7)年4〜6月にかけて,埼玉県岩槻市を中心にA型肝炎患者の集団発生があり,疫学調査の結果から,市内のレストランでの食品を介した感染ではないかと推測されたので報告する。

 患者数は埼玉県春日部保健所の調査で終息時までに71名であり,患者基本情報,症状,発症日,喫食症状,飲料水等について調査を行った。

 調査結果:発症者の主症状は発熱,肝機能障害,全身倦怠感であり,71名中70名に血中抗A型肝炎ウイルス抗体の上昇が確認された。また,71名中70名について感染源と思われるレストランでの喫食が確認されたが,感染源となる喫食物の特定には至らなかった。喫食日が判明した59名については,4月9日〜29日の間に当該レストランで喫食していたが,最も多いのが4月25日(火)の17名,次いで20日(木)の12名,24日(水)の5名であった。発症日の判明している67名は,4月28日〜6月15日の間に発症しており,そのピークは5月20日頃に認められた(図1)。

 喫食日と発症日の両方が判明した患者56人についての潜伏期は7〜44日(平均28.2日)であった。71人中,ただ1人,当該レストランで喫食歴のない患者はレストラン経営者の妻であり,レストランで喫食し発症している夫に3日遅れて発症していた。

 感染源として推定されたレストランの環境調査では,営業用の飲料水は市営水道を使用しており,5月29日に保健所が立入検査した時点でも0.5ppmの遊離残留塩素が確認されている。当該レストランは,シェフ1人と従業員4名で営業しており,このうちシェフ1人だけが,先行して4月28日に発症している。その他の70名の患者は5月11日以降に発症しており,5月20日頃をピークに6月15日まで患者発症が認められた。レストランの営業は5月26日から約2週間自粛したが,その間保健所では,食器,冷蔵庫内,調理場全体の洗浄と塩素剤による消毒を指示するとともに,食品の衛生的な取り扱いについて指導した。さらに,6月10日の営業再開時には,次亜塩素酸ナトリウムを用いて,施設,食器,器具等の噴霧消毒を実施した。

 保健所が最初に集団発生の情報を得たのは,多くの患者の推定感染時期を1カ月以上過ぎた5月29日であり,患者発生のピークからも1週間以上経過した時点であったことから,特定の感染源,感染経路の決定は困難であった。ただ,発症者のほとんどが当該レストランでの喫食歴があり,感染時期がシェフの潜伏期にほぼ一致すること,ウイルスの含有が積極的に疑われる食材や水源が存在しないことなどから,何らかの要因で当該レストランのシェフが先行して感染し,シェフの糞便→手指からレストランの食品,食器等を介して集団発生に至った可能性が最も疑われる。



埼玉県春日部保健所
高橋邦夫 仲筋正二 片桐 始 坂本むつ子 吉岡マサ子 平沢忠勝
埼玉県衛生部
平井 茂 本田麻夫
埼玉県衛生研究所
奥山雄介


図1 発症者の喫食日・発症日





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