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Vol.16 (1995/10[188])

<国内情報>
埼玉県で発生したST産生性大腸菌O169:H41による集団下痢症事例


 近年,国内外で毒素原性大腸菌(ETEC)O169:H41による食中毒が多発しており,しかもそれらの多くは大規模事例となっている。埼玉県においても,本菌による食中毒は過去に3件あり,養護学校の給食(1991年9月,129/338),消防署の会議用弁当(1992年8月,196/288),中学校の給食(1992年9月,2,707/4,941)と,いずれも大規模なものであった。さらに,今年,埼玉県において,再び本菌による大規模な集団下痢症に遭遇したのでその概要を報告する。

 1995年6月28日〜7月4日にかけて,県内の某事業所において,1,575名(社員1,557,調理従事者16,その家族2)のうち537名(社員525,調理従事者10,その家族2)が胃腸炎症状を呈した(発症率34%)。その主要症状は,下痢(96%),腹痛(68%)であった。日別の患者発生状況は,次ページの図のとおりである。

 調理従事者の家族にも患者がいたことから,当初,感染症,ウイルス,食中毒のすべてを疑い,便61検体について検査を実施したところ,ロタウイルスは陰性であり,病原菌は,黄色ブドウ球菌が12検体から,ウェルシュ菌が4検体から検出されたが,潜伏期間や症状などから本事例の原因菌とは考えられなかった。しかし,患者(24/42),調理従事者(2/17)およびその家族(1/2)から,ETEC(O169:H41)が検出された。

 本菌の毒素産生性については,コリストEIA(デンカ生研)で試験し,ST遺伝子の確認はST IaプライマーによりPCRで実施した。血清型O169:H41が確認された27検体中24検体がST産生性を示し,ST Ia遺伝子を有していた。また,これらの株はすべてTC耐性,NA感受性であった。

 以上のことから,本下痢症事例の病因物質はETEC(O169:H41)であると推定された。また,感染源としては,患者発生がこの事業所に限られていることと,調理従事者からも本菌が検出されていることなどから,当該事業所の給食が最も疑われ,カイ二乗検定により6月27日〜29日のA定食が疑わしい食品となった。しかし,保健所への事件発生の届出が7月4日と遅れたためこれらの検食は既に処分されており,原因食品を特定するには至らなかった。



埼玉県衛生研究所
青木敦子 大塚佳代子 斎藤章暢 小野一晃 正木宏幸 川口千鶴子


図. 日別患者発生数





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