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Vol.16 (1995/9[187])

<国内情報>
胎児風疹の遺伝子診断


 風疹の流行年に一致して先天性風疹症候群(CRS)患児の出生が多いことが,全国923病院へのアンケート調査と発表例の検索等から明らかとなった。多い年(1987年)では103例になる(臨床とウイルス,23,148-154,1995)。また,人口動態統計の人工死産証書から,風疹感染を理由とした人工死産例数も風疹流行年に多いことがわかってきた。1976年の流行時には,2,459例にも及んでいた(図)。これらの人工死産児が確かに風疹に感染していたのかは不明であるが,最近の状況については,ウイルス遺伝子診断法の開発によって次第に明らかになってきた。

 1991年9月〜1995年7月までの間に,胎児風疹感染の疑いでウイルス遺伝子の診断をした症例は209例であった(表)。母親の妊娠中に発疹が現れた顕性感染例が100例,一方,発疹が現れず,高い風疹HI抗体価や,風疹lgM抗体の存在,風疹患者との接触等で不顕性感染が疑われた例が109例であった。発生学的に胎児由来組織である胎盤絨毛,羊水,臍帯血の少なくとも1組織から風疹ウイルス遺伝子が検出された場合を胎児感染陽性と診断した(臨床とウイルス,22,31-35,1994)。その結果,陽性は顕性感染群では40例(40%),不顕性感染群で7例(6.4%)であった。全体では陽性率は23%となり,胎児感染が疑われた症例のなかで8割弱は胎児感染が起こっていなかったものと思われる。胎児感染後の妊娠の転帰は表中の通りであるが,遺伝子陰性群からの出生児131例には先天性風疹の障害は1例もなかった。一方,遺伝子陽性群からの出生児7例中2例は,CRSであったが,他の5例は健常児であった。このことから胎児感染が起きても必ずしも障害を引き起こすものではないことがわかった。

 風疹のウイルス分離は細胞培養系を必要とし,長い場合には,1カ月もかかるという労力の多い作業であるが,遺伝子検出は細胞培養を必要とせず,また,2日で結果が出る簡便な方法である。検査対象としては,胎児診断以外に,出生後のCRSや風疹脳炎の確定診断にも使用可能である。

 遺伝子診断法の普及により,風疹流行のたびに繰り返される非感染胎児の無用の人工流産が無くなることを期待したい。



予研・ウイルス製剤部 加藤茂孝


図 風疹感染を理由とした人工流産数
表 胎児風疹の遺伝子診断と妊娠の転帰





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