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Vol.16 (1995/8[186])

<国内情報>
冬季にみられたエンテロウイルス71型の小流行−岡山県


 エンテロウイルス71型(EV71)は,手足口病の病原ウイルスとして他のエンテロウイルス同様夏季に多く分離されるが,今回,冬季に舌炎・軟口蓋潰瘍を主症状とする患者(臨床的に手足口病と診断された者を含む)5人の咽頭拭い液からEV71を分離した。

 1995年1月下旬〜2月下旬に岡山市東部S地区の1小児科医院を受診した患者5名(1歳〜4歳5カ月)に関するデータは表のとおりである。

 2名(KR17,KR18)は初診時は舌炎(先端部の発赤・潰瘍,側縁部の舌乳頭白濁膨化)のみであったが,再診時に手足に定型的症状がみられ手足口病と診断された。他の3名は発熱・上気道炎(咽頭痛,咳)・軟口蓋潰瘍・舌炎(舌乳頭の乱れ,小出血)の症状を呈する者,舌炎(先端部の発赤,白色小嚢胞,疼痛)・上気道炎(咳,鼻汁,咽頭発赤)の症状を呈する者,舌炎のみで他に症状のみられなかった者が各々1名であった。

 患者5名から初診時に採取した咽頭拭い液で培養細胞3種類(FL,RD-18S,Vero)によるウイルス分離を行い,全例からEV71が分離された。3例はFL・RD-18S・Veroで,1例はFL・RD-18Sで,1例はVeroのみでウイルスが分離され,いずれも抗EV71自家製抗血清20単位で容易に中和された。

 患者(KR17)からの分離株を用いて患者3名の対血清(急性期:初診時,回復期:初診から3〜4週間後に採取)の中和抗体価を測定したところ,4倍以上の抗体価上昇がみられた。

 患者は2名がA保育所,3名がB保育所に通園しており,A保育所の状況は不明だが,B保育所では2月中旬〜下旬に手足口病様症状を呈した園児が0〜1歳のクラスで7名,2歳のクラスで4名,3歳のクラスで1名みられた。また,患者KR17では本人に続いて家族内で父と姉が定型的手足口病症状を示す疾病に罹患している。

 岡山県感染症サーベイランス事業の1995年1月下旬〜2月下旬の患者情報では,S地区を含む県東南部(岡山・東備地域)の手足口病患者数は1週あたり2〜3名で,特に増加は認められなかった。したがって,この流行は保育所等感受性者集団内での限局的流行であったと考えられる。

 なお,この流行以後岡山・東備地域では分離されていないが,5月中旬に県中北部の津山・真庭・勝英地域の手足口病およびインフルエンザ様疾患の患者各1名から2株のEV71が分離されている。こうした状況から手足口病の流行が危惧されていたが,岡山県の患者情報によれば,5月下旬(第21週)に55名が報告され,以降患者数の増加が続き,5週後の6月下旬(第26週)には194名が報告されている。これらの患者からのウイルス分離はまだ行われていないが,ここに報告した例と同一血清型のウイルスかどうか興味あるところである。



岡山県環境保健センター
濱野雅子  葛谷光隆 藤井理津志 森 忠繁
医療法人栗原医院
栗原 正


表 EV71が分離された患者の状況





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