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Vol.16 (1995/6[184])

<外国情報>
Ebola出血熱


 WHOは,1995年5月12日付のWeekly Epidemiological Record(WER)で,ザイール南部のBandundu州のKikwit(首都キンシャサの東400km,人口約40万人)で,1995年1月〜4月24日にかけて,下痢を第一の症候とする病気の流行で,患者189例,死者59例が発生し,さらに,2月〜4月8日までの間に,同じ地域で下痢と出血熱を疑われる症例が別に33例発生して,CDCに検体が送られ,Ebolaウイルスが証明されたと発表した。別にCDCは,MMWR(Morbidity and Mortality Weekly Report)5月19日号(Vol. 44,No. 19,p. 381-382,Outbreak of Ebola Viral Hemorrhagic Fever-Zaire,1995)で,ザイール駐在米国大使館衛生担当官,WHO,ザイール政府からの情報として,疫学的詳細を報告している。WHOのいう1月からの発生は詳しく調査されていないが,Kikwitの病院で,検査技師が,4月4日,発熱と出血性の下痢を発症し,4月10日〜11日にかけて,同病院で腸管の腹膜穿孔を疑われて,手術が行われた。4日後の4月14日から同病院の職員に同じような症候を呈する者が現れ,その中の1人が,Kikwitの西約120kmのMosangoの病院に移った。4月20日頃,Mosangoでこの患者を看護したものが発症した。5月9日,急性症状を呈している14例の血液材料がCDCに送られ。バイオセーフティレベル4の検査室で検査された。Ebola抗原の証明,ELISAによるEbola抗体の検出,RT-PCRによるEbolaウイルスRNAの検出が試みられ,14例全例がいずれかの試験で陽性(抗原陽性11例,抗体陽性2例,RT-PCR陽性12例)であり,塩基配列解析で1976年のザイール分離株に近縁であった。5月17日までに確認された疫学データでは,症例93例で86例(91%)がすでに死亡している。現在Kikwit市内の13の診療所,周辺の直径240km以内の15の診療所について,同じような症例の発生について調査中である。

 EbolaウイルスはMarburgウイルスと並んでFilovirus科を構成し,ssRNAのゲノムが紐状のエンベロープを有するビリオンの中に入り,科名の由来となっている。血液を通しての感染後1〜3週間以内に肝,腎,リンパ節,睾丸,卵巣等の壊死,内出血が起こり,同時に,発熱を主徴とする急性症状と低血圧ショックで死亡する。1976年,スーダン南部とザイール北部で第1回の流行が起こり,両国全体で症例550例,死亡430例(78%)と記録されたが,ザイールの流行は,死亡率は88%で,分離されたウイルスもザイール株とスーダン株とで,サルでは病原性が異なり,前者の方がヒトとサルでの病原性が高いと考えられている。1979年,スーダンで,症例31例の第2回の流行が見られたあと,1980年,英国の実験室の針刺し事故での感染例を除き,今回の報告までEbola出血熱の自然発生は見られていない。

 1989年11月,フィリピンから米国に輸入されたカニクイザルに出血熱が発生し,米陸軍とCDCの協力で,ウイルス学的。血清学的にヒトのEbolaウイルスと区別できないFiloウイルスが分離されたが,ヒトのEbola出血熱の発生はなく,ヒトの病原性において,異なる別のウイルスであると判定されている(MMWR,Vol. 39,No. 2,22-30,1990)。しかし,このサルを取扱った技術者178例について,ペア血清による血清学的検査が行われ,4例(2.2%)で有意の上昇または,IgMによる新規の感染が証明され,ヒトに感染し得るものであることは証明されている(MMWR,Vol. 39,No. 13,221,1990)。

 Ebolaウイルスは,未知の自然宿主動物との接触で感染,発症した症例が,血液伝播性感染の予防対策の十分でない医療機関を受診する事で,医原性に拡がる。従って,ヒトからヒトへ自然流行の形で,無限に伝播する事なく,血液,体液との接触についての基本的な注意を徹底することで,発生は消褪するものと予想される。

 1976年,79年の流行は,赤道周辺の熱帯雨林の周辺に起っていること,今回は南部の高原地帯に起こっており,宿主動物の生態についても,前回までと同じでないと思われる。国際協力研究により,ヒトEbolaウイルスの自然宿主動物が究明され,また,アジアのサルEbolaウイルスの生態と,ヒトへの病原性が解明されることが,今後の災禍を予防するための急務であろう。

 前述のWER5月12日号でWHOは,1994年11月に,西アフリカのコートジボワールで,スイス人のサルの研究者が熱性疾患にかかり,帰国後、12月1日に採取した血液から,Ebolaウイルス型のウイルスが分離されたと報じている。症例は,初発例のみで,続発症例は発生していない由であるが,これにより,Ebolaウイルスは、Ebola-Zaire,Ebola-Sudan(それぞれ1976),サル型Ebola(1989),サル関連ヒトEbola(1995)の4つの型が分離されたことになる。



富山県衛生研究所 北村 敬





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