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Vol.16 (1995/5[183])

<国内情報>
インフルエンザウイルスAH3型による脳症と思われる2症例について−宮崎県


 1995年1月〜2月にかけて宮崎県で発生したインフルエンザの流行は主としてAH3型によって引き起こされ,一部B型が混在していた。本流行期間中(1月)にAH3型感染によると考えられる脳症を併発し,死亡に至った症例を経験したので報告する。

 症例1:1歳,女(双生児)

分離ウイルス:インフルエンザウイルスAH3型

経過:1.18 咳,鼻汁,発熱(夜間)

1.19 6:00a.m. 嘔吐

近医受信,発熱39.4℃

11:00a.m. 意識障害,呼吸不全,消化管出血

挿管状態で県立延岡病院に搬送,搬送時には心停止,呼吸停止状態,蘇生にて心拍再開,自発呼吸なし

1.25 植物状態のまま永眠す

検査所見:WBC 8,600,CRP 7.7mg/dl,BS 286mg/dl,NH3 65μg/dl,GOT 246IU/l,GPT 85IU/l,BUN 43.7mg/dl,Cr 1.3mg/dl,Na 143mEq/l,K 6.5mEp/l,Cl 106mEq/l,Spinal fluid(cell:4/3,prot:510mg/dl,sug:70mg/dl)

 頭部CTで軽度の脳浮腫が見られた。髄液所見やその他の検査が正常であること,咽頭ぬぐい液からインフルエンザウイルスAH3型が分離されたことから,インフルエンザウイルスによる脳症と診断した。発症から呼吸停止の状態に至るまで約1日という急性の経過であった。

 なおこの患者の妹(双生児)も同時にインフルエンザウイルスAH3型に罹患したが,6日間の高熱のみで脳症は起こさなかった。

 症例2:3歳,女

分離ウイルス:インフルエンザウイルスAH3型

経過:1.19 3:00a.m. 発熱

9:30p.m. 嘔吐,全身状態不良

1.20 1:40a.m. 来院

顔色不良,意識やや不鮮明

6:00a.m. 呼吸不全,意識障害

2.2 植物状態のまま永眠す

検査所見:WBC 6,400,CRP(−),BS 249mg/dl,NH3 105μg/dl,GOT 111IU/l,GPT 44IU/l,BUN 29.4mg/dl,Cr 0.9mg/dl,Na 140mEq/l,K 3.5mEq/l,Cl 110mEq/l,Spinal fluid(cell:7/3,prot:518mg/dl,sug:45mg/dl)

 頭部CTで著明な脳浮腫が見られた。経過は症例1と類似しており,咽頭ぬぐい液よりインフルエンザウイルスAH3型が分離されたことから,インフルエンザウイルスによる脳症と診断した。MDCK,Vero,BGM,RD-18S,HEp-2細胞による髄液からのウイルス分離は陰性であった。

 これら2症例より経験したことは,インフルエンザ脳症が極めて電撃的な経過をとることもあり,その発症の初期症状は意識障害よりも嘔吐に注意すべきかもしれないという点である。

 また,いわゆるハイリスク群に対する管理方針の決定のために,今後PCR法などによる迅速確定診断が重要と思われる。



宮崎県立延岡病院小児科
小牧宏文
宮崎県衛生環境研究所
山本正悟 三吉康七郎 吉野修司





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