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Vol.16 (1995/5[183])

<特集>
眼から分離されたウイルス 1990〜1994


 眼からのウイルス分離は,急性結膜炎および角膜炎の病原診断として最も確実な方法である。起因ウイルスとしてはアデノウイルスの報告が最も多い (本月報Vol.15,No.5参照)

 1990〜1994年の5年間に眼から分離されたウイルス(クラミジアを含む)は1,840(1995年4月20日現在)で,病原微生物検出情報へのウイルス分離・検出報告総数55,499中3.3%を占めた(表1)。1,840中アデノウイルス(Ad)が89%を占め,血清型別では3型29%,4型25%,8型11%,37型10%,19型5.4%,11型2.2%の順であった。その他では,単純ヘルペスウイルス1型(HSV1)5.2%,コクサッキーウイルスA24型変異株(CA24v)1.8%,クラミジア1.7%などが報告された。1986〜1989年に分離されていたAd22 (本月報Vol.11,No.9参照) はその後報告されていない。CA24v,Ad37,8,19は,それぞれの報告総数の100%,99%,95%,89%と,ほとんどが眼から分離されている。同比率はAd4では66%,Ad11,3では19〜18%,HSV1では4.5%,クラミジアでは2.1%であった。

 年間報告数をみると(表1),1991年に増加して586となり,1984年の736に次ぐ報告数を記録した (本月報Vol.12,No.3参照)。 この年にはAd3,4,8,19,37がそろって増加したためである。Ad4は1992年にさらに増加した。

 眼からウイルスが分離された例のうち臨床診断名が記載されていた例は1,585で,流行性角結膜炎(EKC)1,035,咽頭結膜熱(PCF)246,急性出血性結膜炎(AHC)52,その他の結膜炎224,角膜炎2であった(表2)。以下にEKC,PCF,AHCについては厚生省感染症サーベイランスによる患者報告のデータも加えて,各々の疾病別に解析した。

 流行性角結膜炎:EKC患者報告は夏から秋に増加するが,冬から春にも患者が発生している。1993年は患者数が少なかった(図1)。1990〜1994年にEKC患者からはAd4,3,8,37,19,HSV1,Ad11の順位でウイルスが分離された(表2)。EKC患者は全年齢層にわたってみられ,ウイルスは20〜30歳代を中心に0〜86歳から分離された(図2)。

 咽頭結膜熱:PCF患者報告は毎年夏に増加するが,1993年は患者数が少なかった(図1)。PCF患者は9歳以下が大部分である。分離ウイルスは,Ad3が主で,Ad4も少数報告された(図2)。

 急性出血性結膜炎:AHCの起因ウイルスとしては,エンテロウイルス70型(EV70)とCA24vが知られている。EV70は日本では1984年以降分離されていない。CA24vは,1985〜1986年にAHCの大流行があった沖縄県で,1985年10月に最初に分離された (本月報Vol.7,No.1参照)

 感染症サーベイランスによると,1990年と1993年には宮崎県,1994年には沖縄県で局地的な流行があった。特に1994年の沖縄県の流行は大きく(図1),患者報告数は5,686(定点当り947.7)で,全国の報告数6,357の89%を占めた。患者の年齢は10〜14歳が33%,15〜19歳が21%であった。AHCは小中学校または高校などで集団発生の報告があり (本月報Vol.12,No.3Vol.15,No.1参照), 患者の年齢構成は各流行によって異なる。

 1990年の宮崎県のAHC流行は患者の血清診断からEV70によると報告された(平成2年厚生省感染症サーベイランス年報参照)。1994年の沖縄県の流行では,ウイルスは分離できず,RT-PCRによりEV70の核酸が検出されている (本号参照)

 病原微生物検出情報には1990〜1994年にAHC患者からのウイルス分離が52報告された。CA24vが,1993年に宮崎から29 (本月報Vol.15,No.1参照), 鹿児島から1 (本月報Vol.15,No.6参照), 計30例報告され,うち24例は15〜19歳であった(図2)。残る22例は臨床的にはAHCと診断されたが,分離されたウイルスはAd3,Ad4などであった(表2)。



表1. 眼から分離されたウイルス,1990〜1994年
表2. 眼からウイルスが分離された例の臨床診断名,1990〜1994年
図1. 流行性角結膜炎,咽頭結膜熱,急性出血性結膜炎患者報告数の推移(感染症サーベイランス情報)
図2. 眼からウイルスが分離された例の年齢分布,1990〜1994年





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