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Vol.16 (1995/4[182])

<国内情報>
わが国におけるイソスポーラ症


 イソスポーラ症は水様あるいは粘性の激しい下痢を主徴とする。健常人が感染した場合は一過性で自然に寛解することが多いとされるが,かなり長期に及ぶ例もある。AIDSや成人T細胞白血病(ATL)などで細胞性免疫機能が低下している患者の場合は間欠的下痢が数カ月から数年間も持続する。体重減少と衰弱が著しく,続発性吸収不良症候群の症状を示す。分泌型TgAの著名な低下を認める症例もあり,好酸球増多を示す例もある。適切な治療を行わないと症状はますます悪化して死の転帰をとることもある。先進国では感染はまれであったが,AIDSの流行や免疫抑制療法の普及によって,これらの地域においても日和見感染症の一つとして重要になっている。

 わが国では1981年以降12例が報告されており,未発表のものも3例ある。その大半はATLなどの免疫不全患者である。ATLがまだくすぶり型であっても本症は重症を呈することがある。表に示したように,海外旅行で感染したと思われる例もあり,近年は症例増加の傾向にあるといえる。報告されている症例数は少ないが,過去の報告をみると,ATL患者などで下痢を発症しても本症の確定診断がつくまでに長期間を要している例が多いので,見逃されている例もかなり存在するのではないかと思われる。

 治療にはST合剤(TMP/SMX)などが使われ著効を示すが,しばしば再発がみられる。投与を反復していると原虫が薬剤耐性を獲得するのか,難治性になることもある。

 イソスポーラは胞子虫綱のコクシジウム類に属する原虫で,小腸の粘膜上皮細胞内に寄生して無性生殖と有性生殖を繰り返しながら増殖する。ヒトに寄生するのはIsospora belli(戦争イソスポーラ)で,患者の糞便中には未成熟のオーシスト(長径23〜30μm,短径12〜15μm,平均27×14μmの楕円形)が多数排出され,外界で2〜3日経過すると成熟して感染性を有するようになる。これを経口摂取すると感染する。

 診断は糞便からオーシストを検出すればよい。オーシストの大きさは肝吸虫卵ほどであるが,オーシスト壁は薄く無色で,内部には微小な顆粒の集塊(約14×18μm)があるのみなので注意深く鏡検しないと見落とす。

 わが国では寄生虫症,特に原虫症の検査・診断がおろそかにされている。免疫不全患者に下痢の発症をみたときや,健常人でも頑固な下痢が反復する場合には本症も念頭において的確な検査を実施しなければならない。



大阪市立大学医学部 井関基弘


わが国におけるイソスポーラ症の報告例(1981年以降)





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