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Vol.16 (1995/4[182])

<特集>
細菌性髄膜炎 1990〜1994


 感染症サーベイランス情報における感染性髄膜炎の発生報告のうち,細菌性髄膜炎の占める割合は10%以下である。1992年は感染性髄膜炎報告総数2,587のうち246(9.5%)が,1993年は2,362のうち228(9.7%),1994年は2,998のうち239(8.0%)が細菌性髄膜炎であった。1990年および1991年の細菌性髄膜炎の報告数はそれぞれ286および247で (本月報Vol.13,No.5参照), 過去5年間の報告数に大きな変動はなかった。一定点医療機関当たりの年間報告数も1990年0.47,1991年0.51,1992年0.45,1993年0.42,1994年0.44と,ほぼ一定で推移した。図1は1990〜1994年の定点当たりの月別患者報告数である。7〜8月に発生のやや多く見られる年があるものの,月別発生の差は明瞭でない。

 細菌性髄膜炎患者の年齢分布は0歳が最も多く,1990〜1994年の0歳児の割合は35〜43%,ついで1歳児が13〜14%を占めた。2〜4歳の12〜19%および5〜9歳の7.3〜18%を合わせると,患者の80%以上が9歳以下であった(図2)。同期間の患者の男女比は1.3:1であった。

 感染症サーベイランス情報では,細菌性髄膜炎患者の約20%のみから検出病原体の報告がされている。ここで報告された病原体の主なものは,Haemophilus influenzaeH. Influenzae, インフルエンザ菌),Streptococcus pueumoniaeS. pneumoniae, 肺炎球菌),Group B Streptococcus(B群レンサ球菌)等であった。

 病原微生物検出情報では1990年1月から医療機関で検出される病原細菌の集計様式を検体材料別に改めた。表1に1990〜1994年に髄液から検出された病原細菌を示した。検出報告数の最も多かったのは1993年の415(28%),最も少なかったのは1994年の232(16%)で,この期間の総数は1,472に達した。髄液からの検出病原細菌で多かったのはH. influenzaeおよびS. pneumoniae で,それぞれ251(17%)および250(17%)であった。その他Escherichia coliE. coli, 大腸菌),Group B Streptococcus, Listeria monocytogenesL. monocytogenes, リステリア菌)が6.4〜2.1%検出されたが,Neisseria meningitidisN. meningitidis, 髄膜炎菌)は5年間で8例(0.5%)と少なかった。Staphylococcus aureusS. aurers, 黄色ブドウ球菌)は747(51%)報告された。

 病原微生物検出情報では上述の集計の他に,医療機関における重要と思われる症例に関する情報を収集している。表2は,1990〜1994年に報告された個別情報のうち,細菌性髄膜炎患者から病原体が検出された事例について,検出病原菌種別,性別,年齢別にまとめたものである。事例数は1990年27,1991年13,1992年10,1993年33,1994年22の合計105であった。性別は男62,女43,性比は1.4:1で,感染症サーベイランス情報による同期間の患者の性比とほぼ一致した。105例の年齢分布は0歳25%(26),60歳以上23%(24),1〜4歳15%(16),50〜59歳12%(13)で,乳児と高齢者に集中していた。検出された病原体の種類は24種で,最も多く報告されたのはS. pneumoniaeで,25例のうち11例(44%)が50歳以上の高齢者から検出された。一方,Group B StreptococcusおよびE. coliは新生児のみから,H. influenzaeは5カ月〜4歳の乳幼児のみから検出された。周産期感染の原因菌として注目されているL. monocytogenesは,出生直後の男児から1例の報告があったが,その他はいずれも38歳〜73歳の患者から検出された。Cryptococcus neoformansによる髄膜炎7例はすべて49歳〜74歳の高齢者からの検出であったこと,Mycobacterium tuberculosis(結核菌)による髄膜炎4例のうち,半数が20歳代からの検出であったことが注目された。S. aureusの検出報告数は4例のみで,うち3例がMRSAであった。

 編集委員会からのコメント:医療機関で検出される病原細菌の検体材料別集計のうち,髄液からS. aureusが多数報告されている(表1)。しかし,本集計では患者に関する個別の情報が集められていないので詳細は不明である。医療機関におけるS. aureusの検出の実態について早急に検討する必要があろう。



図1. 月別細菌性髄膜炎患者発生状況 (感染症サーベイランス情報)
図2. 細菌性髄膜炎患者の年齢分布 (感染症サーベイランス情報)
表1. 髄液から検出された病原細菌(医療機関集計,1990〜1994年)
表2. 細菌性髄膜炎患者から検出された病原体,1990〜1994年(医療機関における重要と思われる症例に関する情報)





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