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Vol.15 (1994/3[169])

<国内情報>
コクサッキーウイルスB2型が検出された非細菌性急性胃腸炎の集団発生事例−大阪市


 ヒト急性胃腸炎患者糞便中に検出される主なウイルスにはロタウイルス,アデノウイルス,そしてこれらのウイルスより小さな球形のウイルスで小型球形ウイルス(SRV)と呼ばれる一群のウイルスがある。CaulらはSRVの粒子の表面が無構造か否かにより2大別し,前者にはエンテロウイルス,パルボウイルスや類似ウイルス等を分類し,後者にはアストロウイルス,カリシウイルスそしてNorwalkウイルスや類似ウイルスを含めたSRSV等を分類した。特にSRSVはわが国の内外において発生した非細菌性急性胃腸炎の集団発生事例で多数検出されている。1984年12月〜1992年2月の間に大阪市内で集団発生し,主としてカキが関連した非細菌性急性胃腸炎26事例(対象者672名,患者348名,発症率52%)中17事例(65%)にSRSVが単一の病因として検出された(木村,日本食品低温保蔵学会誌,19,29,1993)。ところが,1992年1月にコクサッキーウイルスB2型(CB2)が検出された集団事例が発生した。この事例について報告する。

 1992年1月14日に会食した対象者23名中,15日10名,16日に5名,合計15名が発症し,発症率は65%と高率であった(図1)。患者の発生状況から単一暴露による食中毒が疑われ,患者4名,健常者1名,調理人11名の糞便とふきとり20件について食中毒菌検索が実施されたが食中毒菌は検出されなかった。一方,患者4名について,喫食調査が行われたが原因食品を推定することもできなかった。患者15名について会食後発症までの潜伏時間を調べたところ,11名(73%)が20時間〜34時間に集中して発症しており,平均潜伏時間は27時間であり,SRSV性事例の35時間前後に比べてやや短い潜伏時間であった。患者15名の発症期間中の主な症状分布を表1に示した。嘔気,嘔吐,下痢,腹痛などの胃腸炎症状の他に発熱,倦怠感,頭痛,悪感などの症状が認められた。主な症状について,SRSV性急性胃腸炎と比較すると,本事例では嘔吐が80%と高く,下痢が53%とやや低かった。発熱が認められた8名中6名(75%)が38℃以下であり,SRSV性事例とよく似た発熱状況であった。

 患者4名の2病日から4病日の糞便と健常者1名の糞便について,MA-104,Vero,RD-18Sなどの各種細胞を用いたウイルス分離,ELISA法(ロタクロン使用)によるA群ロタウイルス抗原の検出,そして既報(春木他,臨床ウイルス,16,59,1988,Haruki et al. : Microbiol. Immunol., 35,83,1991)の方法による電顕的検索を実施した。電顕的検索ではロタウイルス,アデノウイルスそしてSRSVは検出されず,ロタウイルスはELISA法でも陰性であった。一方,Vero細胞を用いた細胞培養法によって,患者4名と健常者1名のすべての糞便材料からCPE因子が検出され,同定の結果すべてがCB2と判明した(表2)。

 CB2は下痢症に関連したウイルスの1種と考えられている(鈴木栄,最新医学,33,1588,1978)。実際に胃腸炎症状を伴った患者便からCB2が検出された事例が報告されている (病原微生物検出情報,14,45,1993) が,すべて散発例であり,しかも幼児を中心とした成人以下の低年齢層からの検出例が多い。これまでに,単一のエンテロウイルスによる非細菌性急性胃腸炎の集団事例はエコーウイルス18型によるニューヨークの病院の未熟児室で発生した事例が唯一の報告である(Eichenwald et al., JAMA,166,1563,1958)。本事例が発生した同時期に大阪市内において感染性胃腸炎の患者(4歳)糞便材料からCB2が1件検出されたが,全国的にみても検出報告は非常に少なく,同時期にCB2による感染症の流行があったとは考えられない。本事例はCB2によって発生した可能性が示唆されためずらしい集団発生事例であった。



大阪市立環境科学研究所
春木 孝祐,勢戸 祥介,村上 司,小林 勝,花岡 正季,木村 輝男


図1.患者発生状況
表1.発症者の症状分布(15名)
表2.病因検索の実施結果





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