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Vol.15 (1994/2[168])

<国内情報>
小型球形ウイルスによる下痢症集団発生−東京都


 毎年冬季になると非細菌性の食中毒様集団発生事例が多発する。本報告は1993年10月に発生した食中毒様集団発生事例から今冬季初めてSRSV(Small round structured virus)を検出したので報告する。

 事例の発生状況:1993年10月10日,都内の飲食店で20名のグループが法事を行い会食した。このうち1名が翌日食中毒様症状を訴え保健所に届け出た。保健所ではただちに調査を実施した。

 疫学調査:食中毒様症状を訴えた人は20名中17名(発症率85%)であった。これらのうち13名について調査を行った。患者の年齢は16歳から73歳(平均40歳)であった。患者の初発症状は嘔気で主症状は下痢12名(92%),腹痛10名(77%),嘔気7名(54%),嘔吐6名(46%)等であった。下痢の有症率は高く,ほとんどが水様性で1日1回から10回(平均3.8回)であった。その他,軽度の発熱(37.8℃)が4名にみられた。潜伏時間は13時間から88時間で平均は37時間であった。このうち一家族において2名が82時間,88時間と,SRSV性胃腸炎の潜伏時間(24〜48時間)に比べ極めて長いものが認められ,家族内での二次感染が疑われた。なお,患者13名中7名は近隣の医院で受診し,このうち1名が食中毒の診断を受けた。

 喫食調査は不十分であったが当日の会食メニューに生カキが含まれており,これが原因食品として推定された。

 検査成績:検査材料は発症後2病日から5病日に採取された検査可能な8名の患者糞便を用いた。糞便は10%乳剤とし,A群ロタウイルス検査キット「ロタクロン」によりロタウイルス検査を実施したのち遠心濃縮して電子顕微鏡(EM)検索に供した。その結果,A群ロタウイルスは検出されなかった。しかし,EM検査では表面に突起様構造をもった約30nmのSRSVが5名(63%)の患者糞便から検出された(表)。検出されたSRSVと病因との関連は患者から血清を採取することができなかったため明らかにすることができなかった。しかし,他の事例から得られた患者ペア血清と本事例でSRSV量の比較的多かった患者1名のEM試料とを用いて免疫電子顕微鏡法を実施したところ,強い抗体付着が観察された。

 今回の事例は患者糞便から高率にSRSVが検出されたこと,患者の臨床症状がSRSV性胃腸炎に類似すること,そして他の事例から得られたSRSV胃腸炎患者由来血清に対して抗体付着が認められたことなどからSRSVによる集団発生事例と判定した。また,喫食調査は不十分であったものの,SRSVによる胃腸炎の二次感染も疑われた。

 東京都ではSRSVによる胃腸炎の集団発生が毎年11月の初冬に始まり1月をピークとして漸次減少している。本事例はこれまでに比べ約1ヵ月早い時期に発生したSRSVによる集団事例であった。



東京都立衛生研究所
関根 整治,林 志直,佐々木 由紀子,関根 大正


表.EM検索を実施した患者の臨床症状と検査結果





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