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Vol.15 (1994/1[167])

<特集>
赤痢 1991〜1993.10


 1985〜1992年の8年間に伝染病予防法に基づいて届けられた赤痢患者総数は8,840人で,細菌性赤痢7,920(90%),アメーバ性赤痢920(10%)であった。同期間の年間発生数に大きな変動はなかった。1992年の発生のうち,細菌性赤痢の57%およびアメーバ性赤痢の22%が国外感染であった。特にアジア地域での感染が多く,細菌性赤痢の49%,アメーバ性赤痢の17%を占めた(図1)。患者の年齢分布では細菌性赤痢は20〜29歳が最も多く44%,次いで0〜9歳,30〜39歳がそれぞれ15%であった。アメーバ性赤痢患者の92%は20〜69歳で,なかでも40〜59歳で多発した(図2)。

 地研・保健所集計による赤痢菌の月別検出状況によると,検出のピークは1991年は3月と5月に,1992年は7月に,1993年は2月と4月にみられ,ソンネ赤痢菌検出のピークと一致した(図3)。これはソンネ赤痢菌による国内の集団発生を反映しているためであろう。1991〜1993年10月までに報告された赤痢集団事例(速報)によると,この期間に発生した14事例中13事例はソンネ赤痢菌が原因であった。また,9事例(64%)が幼稚園,保育園,小学校,児童養護施設,精神薄弱者施設などの低年齢集団での発生であった(表1)。これら施設での発生原因について原因食・飲料水等の検査を含めた調査がなされたが,いずれも原因を究明するに至らなかった。ソンネ赤痢菌による赤痢は比較的症状が軽いため,風や感染性胃腸炎の多発時期と重なった場合は,初発患者の発見が遅れ発生が拡大する傾向にある。14事例中12〜3月に発生した6事例は,いずれも下痢を伴う“かぜ”と診断されていたために対策が遅れ,流行の拡大につながったことが指摘された (本月報Vol. 12,bUVol. 13,bRVol. 14,bV参照)。 一方,東京都内の小学校で発生した集団赤痢(事例7)は,専門医への受診が早かったうえ,病院,行政,学校が緊密に連携し対策に当たったため,流行の拡大を最小限に食い止めることができた (本月報Vol. 13,bX参照)。 フレクスナー赤痢菌による家族内発生(事例14)は,ペットとして輸入されたサルから感染した事例で,患者とサルから検出された赤痢菌は血清型,プラスミドプロファイル,薬剤感受性パターンが同一であった (本号参照)

 1991年および1992年に地研・保健所と13都市立伝染病で検出された赤痢菌の群別検出数を表2に示した。地研・保健所集計では志賀赤痢菌およびボイド赤痢菌は輸入例から,ソンネ赤痢菌は国内例からの検出が多かった。一方,都市立伝染病院集計ではすべての群で輸入例の割合が高かった。

 都市立伝染病院に入院した細菌性赤痢患者の主な臨床症状を,国内例,輸入例別に表3に示した。いずれも水様便の割合が高く,血便および粘液便を起こす割合は低かった。また,両者の間に大きな差はみられなかったが,血便を起こす割合が国内例でやや高い傾向がみられた。なお,国内例の約90%,輸入例の約70%がソンネ菌による赤痢であった。

 都市立伝染病院で分離された赤痢菌の薬剤感受性試験成績によると,輸入例の54%がST合剤に耐性であった。また,1991年には輸入例からオフロキサシン耐性株が1株検出されたのが注目された。

 なお,アメーバ性赤痢の感染実態については 本月報Vol. 14,bWを参照されたい。



図1.感染地別赤痢患者数 1992年
図2.年齢群別赤痢患者数 1992年
図3.月別赤痢菌検出状況(地研・保健所集計)
表1.赤痢集団事例 1991年1月〜1993年10月(速報)
表2.群別赤痢菌検出状況
表3.細菌性赤痢の臨床症状(都市立伝染病院,1991年,1992年)





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