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Vol.14 (1993/12[166])

<国内情報>
北海道で多発しているSalmonella Enteritidis食中毒−ファージ型,薬剤感受性,プラスミドプロファイルによる解析


 わが国において,Salmonella Enteritidis(.E)による食中毒が急増しているが,北海道においても,1992年(昨年)ごろから,その傾向が認められている。特に1993年(今年)5月から10月(現在)にかけて,集団食中毒事例が,札幌市,胆振支庁において6例(事例@〜E,うち4例は患者約100名以上)発生した(表1)。また,7〜10月に胆振支庁D市某保育所園児と近隣の0〜12歳児において,同菌による下痢症の連続発生がみられる(32名,事例F)。今回,これら7例の集団事例と同時期に起きた散発事例で検出された菌株24株について,ファージ型(PT),プラスミドプロファイル,薬剤感受性を実施し,疫学的解析を試みた。

 集団食中毒事例6例中3例は,カニ豆腐(事例@),生卵入り納豆(事例B),サワラの包焼(事例E)が原因とされ,鶏卵を使用した食品の関与が考えられた。しかし,上記3例を含む全事例で鶏卵(保存食材等)から.Eは検出されなかった。また,3例(事例@,A,C)において,調理従事者にも有症者または健康保菌者が存在した。これら事例の汚染源としては,鶏卵か調理従事者のいずれか,または両者,さらに他の食材等が考えられたが,特定するに至らなかった。事例Fでは,食品以外による家庭内または保育所内,学校内での感染も疑われている。

ファージ型,プラスミドプロファイルおよび薬剤感受性試験の結果を表2に示した。集団事例7例中6例(事例@,A,B,C,D,F)の原因菌はPT1,60Kbpのプラスミド単独保有で,SM耐性またはSM,TC耐性であった。他の1例(事例E)はPT4で,薬剤感受性,60Kbpのプラスミド保有株であった。これらの集団事例では,原因菌はそれぞれにおいて同一であると考えられた。しかし,下痢症続発の事例FはPT1であるが,薬剤感受性の異なる.Eが検出された。なお,単発事例24株中20株はPT1(SM耐性:15株,SMおよびTC耐性:5株),2株がPT34(以下SM耐性),他にPT7とUTがそれぞれ1株で,すべて60Kbpのプラスミドを保有していた。

今年の北海道の.E集団および散発食中毒事例の大半は,1992年以降全国的に流行しているPT1であった。これら菌株は60Kbpのプラスミドを保有し,SM耐性,またはSM,TC耐性を示した。集団例の原因食品として,鶏卵使用食品が推定されたが,保存食材の鶏卵および関連の納入業者,養鶏場の鶏卵のいずれからも.Eは検出されず,原因鶏卵,養鶏場等を特定するには至らなかった。

 プラスミドプロファイルの実施に御協力いただいた山梨県衛生公害研究所金子通治先生,また菌株を分与くださった札幌市衛生研究所川合常明先生に深謝致します。



北海道立衛生研究所 長谷川 伸作
予研細菌部 中村 明子


表1.北海道におけるSalmonella Enteritidisによる食中毒事例(1993年1月〜10月)
表2.北海道におけるSalmonella Enteritidisによる集団および散発食中毒事例(1993年1月〜10月)--- ファージ型,薬剤感受性,プラスミドプロファイル ---





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