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Vol.14 (1993/12[166])

<国内情報>
1992/93年インフルエンザ流行期に脳幹脳炎を伴ったインフルエンザB型ウイルス感染症例−佐賀県


 1992/93年シーズンにおけるインフルエンザ様疾患は佐賀県においても1985/86年シーズン以来の大きな流行であった。ウイルス分離状況からみると,B型が11月下旬から翌年3月まで検出され,1月にAH3型が混在し,大きな流行となったと推定された。これらウイルス分離陽性検体の臨床症状は呼吸器症状が主体であったが,流行終期の3月上旬に意識障害,言語障害および運動失調を主徴とする1脳炎患者の咽頭ぬぐい液からインフルエンザB型を検出したのでその概要を報告する。

 症例は12歳,男児,体重35kgで,1993年2月26日から咳嗽出現し,翌27日から微熱があった。2月28日朝,38.5℃の発熱があり,トイレへ歩行中に間代性筋痙攣様の発作が出現し,言語不明瞭となったため,近医受診後,国立佐賀病院に入院した。なお,頭部打撲等の既往はなく,インフルエンザワクチンは過去2年間接種していない。また,家族歴も特記すべきことはない。

 入院時は発熱(39.4℃)があり,体幹失調,言語不明瞭で,小脳症状が強く,病歴・神経症状等から急性小脳炎と診断された。しだいに脳幹症状,特に嚥下障害,精語・発声障害を伴う球麻痺状が出現した。検査所見は髄液細胞数の増加(107/3/mm3)と,尿中ケトン(++)のほかは特に異常は認められていない。また,頭部CTおよびMRIに異常所見はなく,EEG徐波の多発・左右差は認められていない。血液,髄液および咽頭部の細菌培養は陰性であった。

 ウイルス分離(Vero,HEL,RD−18SおよびMDCK細胞を使用)は3月1日に採取された咽頭ぬぐい液,髄液,糞便,尿から行った。その結果,咽頭ぬぐい液からインフルエンザウイルスB型を検出した。また,ペア血清による抗体検査では分離株とともに,B/バンコク/163/90に有意な抗体上昇(<16→512)を認めた。

 臨床経過は図のとおりであった。

 インフルエンザの神経合併症の予後は,一般に良好で後遺症を残さないとされているが,急性発症例では予後が悪く,死亡例も報告されている。本症例は,発症約半年後には逆行性健忘症や軽度の言語障害が認められるが,特に神経学的異常を認めない程度に回復している。



佐賀県衛生研究所
船津丸 貞幸,田中 知子 山田 裕子*
藤川 攸心 土田 龍馬(*現県立病院)
国立佐賀病院 松本 和博,清水 貴士








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