HOME 目次 記事一覧 索引 操作方法 上へ 前へ 次へ

Vol.14 (1993/8[162])

<国内情報>
日本におけるフィリピン毛細線虫感染例


 フィリピン毛細線虫(Capillaria philippinensis)はその名が示すように,フィリピン北部のルソン島で29歳の男性の先生が激しい下痢のため衰弱が激しく入院したが,1週間で死亡したため剖検したところ,その大腸と小腸に多数の毛のような虫体が見出されたのが最初である。その時その虫体は新種として記載された(Chitwood et al.,1968)。本症はその後の調査でルソン島北西部において大きな流行があることがわかり,しかも死亡率も極めて高い(7%)ことがわかった。

 本虫の生活史には淡水魚が関与しているが,現在のところでは本虫の自然感染はタナゴモドキの一種からのみ報告されている。もっとも実験的には多くの淡水魚で感染が成立し,それらの淡水魚でもって猿や鼠,鳥へも容易に感染が起こることがわかっており,人への感染も淡水魚類の生食あるいはそれに近い摂取からと考えられている。

 このようなフィリピンで流行している本症はその後図1に見るように台湾,韓国,タイ,インドネシア,イラン,エジプト等,フィリピンから遠く離れた地域での患者が報告されるようになり,わが国でも1982年にその第1例が広島県から報告された(向井ら,1983)。そして,1988年には香川県(鎌野ら)と宮崎県(Nawa et al.)から,1990年には三重県(安藤ら)から報告されている。しかしながら,これらの患者のすべては海外旅行の経験がなく,流行地での感染とは考えられないこともわかってきた。現在確実な証明はなされてはいないが,推測としてはこれらの流行地以外での患者発生は流行地のフィリピンで本虫に感染した渡り鳥が各地へ飛来した時に虫卵を含んだ糞便を落とし,その虫卵で汚染された淡水魚から人は感染したものと理解されている。

 本虫感染者は治療を施さない場合は死の転帰をとることがしばしば報告されているが,現在では,thiabendazole,mebendazole,flubendazoleでの治療が可能になり,わが国の患者もこれらの薬剤での治療が行われ,完治している。

 参考文献

安藤勝彦ら(1990):寄生虫誌,40(2)補,204

鎌野周平ら(1988):日本消化器病会誌,85(増),2130

向井俊一ら(1983):内科宝函,30,163-169

Nawa, I. et al.(1988):J.Parasit.,37(2),113-118



予研寄生動物部 影井 昇


図1.フィリッピン毛細線虫感染者の地理的分布





前へ 次へ
copyright
IASR