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Vol.14 (1993/6[160])

<外国情報>
Vibrio cholerae,non O1による流行性下痢症


 1993年3月,南アジアの2つの国における臨床症状がコレラに類似した下痢症の流行報告が医学誌に掲載された。従来,コレラを起こすのはコレラ菌のみであったが,今回の流行の原因菌は,V.choleraeの既知の血清群に該当しない血清群O139に起因し,コレラ毒素と同一の毒素を産生することが判明した。V.cholerae,non O1血清群は世界中で分離され,ときに腸管外感染を起こすほか,コレラ類似の脱水症状を伴う下痢を起こすことが知られているが,その発生は比較的限局性の流行または散発例に限られていた。今回の流行は,患者数,死者数ともかなりの数に達していることがうかがわれる。現在のところ,新型菌は南アジアからのみ報告されているが,1961年以降,エルトールコレラ菌が世界的流行を起こしたように,本菌も他の地域へ拡大流行することが懸念されている。

 本菌による臨床症状はコレラであり,従来の治療指針が応用できる。さらに,伝播,予防のためのWHO勧告も依然として有効である。ただし,従来のワクチンの予防効果はこの新しいV.cholerae血清群に対しては期待できない。

 コレラが発生したら国際保健規約に準拠し,国内初発の発見から24時間以内に報告することになっている。今回の疾病が臨床的にも疫学的にもコレラ菌によるコレラと区別できず,コレラと全く同様の公衆衛生上の危険を示すものと推察されるので,この新型菌に起因する事例を認知したら,各国はそれらをコレラに対して要求されていると同様に報告していただきたい。本菌はテトラサイクリンに感受性であるが,コレラの治療に通常使用されているコトリモキサゾール,フラゾリドンおよびその他の抗生物質には耐性である。今回のV.cholerae,non O1に起因するコレラも従来のコレラと同様,依然として潜在的には重症の疾病である。本疾患に対する治療法は,WHO Guidelines for Cholera Controlの最新版(WHO,Geneva,1993)を参考にしてほしい。

(WHO,WER,68,No.20,141,1993)






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