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Vol.14 (1993/5[159])

<国内情報>
インドおよびバングラデシュで大流行しているVibrio cholerae,non O1によるコレラ様疾患について


 1992年10月中旬からインド・カルカッタの伝染病院において,コレラ菌(O1)血清に凝集しないVibrio choleraeによるコレラ様患者が増加し始めた。患者発生はインド西ベンガル地方をはじめ,内陸部に及び,その数は数十万人以上と推測され,さらに増加する傾向にある。一方,バングラデシュでも同様のコレラ様疾患の流行がみられ,ダッカのInternational Centre for Diarrhoeal Disease Researchにおいても,1993年1月中旬から1万人以上が罹患し,500人以上が死亡したことを確認した(Lancet,341,703-704,1993)。またカルカッタのNational Institute of Cholera and Enteric DiseasesのDr.G.B.Nairからの情報によれば,現在カルカッタの伝染病院ではコレラ様患者からコレラ菌が分離されず,すべてが当該菌に置き換わっているという(Lancet投稿中)。

 予研では上記の両研究所から,分離菌232株の同定および血清型別の依頼を受けた。これらの菌株はいずれもV.choleraeの性状をもち,CTおよびZOT遺伝子を保有していたが,O/129(150mcg)およびST合剤に耐性であった。現在,V.cholerae,non O1はO2〜O138および血清型Hakataに型別されるが,供試した223株はこれらのいずれのO群にも該当せず,新しいO群であることが判明した。本菌は血清型O139でインドのコレラ学者故S.C.Pal博士に敬意を表し,通称Scpalと名付けた。当該菌は伝染力,コレラ毒性の産生性等において従来のコレラ菌とほとんど差がなく,臨床症状も従来のコレラに劣らない。しかし,現在までの情報によれば,患者は大人のみで子供の事例はほとんどなく,この点は従来のものと異なる。カルカッタでの死亡率は0.3〜0.5%で,血便のみられる症例も認められている。今後,近隣諸国へと拡大する恐れが十分にあり,わが国へも輸入魚介類などから侵入する可能性も否定できない。

 本菌はコレラ菌(O1)には該当せずV.cholerae,non O1の範疇に入ることから,厚生省では公衆衛生審議会伝染病予防部会コレラ小委員会を開催し,その対策を検討することになった。



予研細菌部,神奈川衛研細菌病理部,東京都衛研微生物部,京都大医学部微生物学教室,
NICED・インド,ICDDR・バングラデシュによる共同研究





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