HOME 目次 記事一覧 索引 操作方法 上へ 前へ 次へ

Vol.14 (1993/3[157])

<特集>
ウイルス性胃腸炎 1991/92


 厚生省感染症サーベイランス情報では,胃腸炎疾患の患者発生数について小児科・内科定点から「感染性胃腸炎」と「乳児嘔吐下痢症」に分けて収集している。1987年以降,「乳児嘔吐下痢症」は0〜3歳のロタウイルスによるとみられる胃腸炎に限定し,一方,「感染性胃腸炎」は「乳児嘔吐下痢症」以外の,ウイルスまたは細菌による胃腸炎が一括して報告されている。

 感染性胃腸炎と乳児嘔吐下痢症の患者発生は毎年,第2〜第3四半期に低下し,第4〜第1四半期に増加する冬季流行パターンを繰り返している(図1)。従来,両疾病の冬季の発生カーブはきわめて類似して推移してきたが,最近は両者の発生報告数の差が大きくなった。すなわち,感染性胃腸炎がほぼ従来と同レベルであるのに対し,乳児嘔吐下痢症の減少傾向がめだっている(図2)。各シーズン(当年第40週〜翌年第39週)ごとの一定点当たり患者報告数(表1)を比べると,1991/92年の感染性胃腸炎が前シーズンの100.1%であるのに対し,乳児嘔吐下痢症は92.2%と約8%の減少がみられた。

 患者の年齢分布をみると,感染性胃腸炎は15歳以上の割合が増加した(図3)。一方,乳児嘔吐下痢症は1987年以降,0〜3歳のどの年齢でも報告数が減少したが,各年齢の割合は変わらない。

 1991年10月〜1992年9月に採取された便からのウイルス検出例を臨床診断名別にみると(表2),乳児嘔吐下痢症と診断された例の84%からロタウイルスが検出され,他にエンテロウイルスが18,アデノウイルスが14(うちエンテリックアデノ,41型2),小型下痢ウイルス(SRV)5が検出された。乳児嘔吐下痢症の患者発生のカーブとほぼ一致して2〜3月をピークにロタが検出されている。感染症胃腸炎と診断された例においても54%と半数以上からロタが検出され,次いでエンテロが76,アデノが61(うちエンテリックアデノ,40型5,41型6),SRVが43検出された。SRVが他の月に比べ12月にやや多く検出されている。1〜3月にはロタが多数検出された。エンテロは夏季に,アデノは年間を通して検出されている。

 ロタの検出数を過去のシーズンと比較すると(表3),最近は,患者の減少と一致して乳児嘔吐下痢症と診断された例からの検出報告数が減少している。これに対し,感染性胃腸炎と診断された例からのロタ検出数はこの5シーズンほとんど変わらないため,最近3シーズンでは乳児嘔吐下痢症からの検出数を上回っている。

 1991/92シーズンに乳児嘔吐下痢症と診断されたロタ検出例は,従来どおり0〜1歳がピークであるが,過去9シーズンの平均(0歳44%)に比べ,0歳の割合(34%)が減少した。感染性胃腸炎と診断された例では1歳をピークに9歳まで,幅広い年齢からロタが検出されている(この他10〜60歳代5例)(表4)。

 本シーズンのSRV検出例は全例9歳以下で,過去の報告にみられた成人例がなかった。エンテロとアデノは0〜1歳をピークに9歳以下からの検出がほとんどであった。

 上記両疾病からのウイルス検出方法は,ロタ406例中ELISA171,電顕162,R−PHA75,ラテックス凝集反応(LA)27,PAGE1(C群ロタ),SRV48はすべて電顕,アデノ75中電顕20,ELISA13,LA9,培養細胞40,エンテロ94中培養細胞が85,マウスによる分離が9であった(複数の方法で検出された例が含まれている)。



図1.乳児嘔吐下痢症と感染性胃腸炎の患者発生状況(厚生省感染症サーベイランス情報)
図2.乳児嘔吐下痢症と感染性胃腸炎患者発生状況(1982年第3四半期〜1992年第4四半期)(感染症サーベイランス情報)
表1.乳児嘔吐下痢症と感染性胃腸炎患者発生状況(感染症サーベイランス情報)
図3.乳児嘔吐下痢症・感染性胃腸炎患者年齢分布(感染症サーベイランス情報)
表2.乳児嘔吐下痢症/感染性胃腸炎患者の便からの月別ウイルス検出状況(1991年10月〜1992年9月)
表3.乳児嘔吐下痢症/感染性胃腸炎患者の便からのシーズン別ウイルス検出状況(1982年10月〜1992年9月)
表4.乳児嘔吐下痢症/感染性胃腸炎と診断され便からウイルスが検出された患者の年齢(1991年10月〜1992年9月)





前へ 次へ
copyright
IASR