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Vol.13 (1992/9[151])

<国内情報>
東京都内で発生した外国人児童のS. sonneiによる集団赤痢について


 わが国の赤痢年間届出患者数はこの数年1,000例弱に減少し,都市部ではその80%あまりが成人を中心とする国外感染である。そのため,小児の下痢は“かぜ”として処理され,赤痢の発見が遅れる傾向がある。

 今回,都内外国人児童を中心に発生した集団赤痢は発熱や下痢などの症状が激しかったこと,専門医受診が早かったこと,病院・行政・学校間の連携が密だったことなどから,患者は一部の二次感染を除いて最小限に食い止めることができたと思われる。その経緯は以下の通りである。

 (1)患者発生状況と疫学調査

 板橋区内外国人学校2年生女児(7歳)が7月1日からの発熱(39℃),1日10回以上の水様下痢,粘血便を主訴として同2日近医を受診,都立豊島病院に紹介された。便培養でS. sonneiが疑われ,同4日赤痢疑似症として届け出された。患児から他にも同様の症状を呈する児童がいるとの情報を得たため受診を勧めたところ,5名が来院,4名(2年生男女各2)が6月30日から7月1日,児童の弟1名が7月3日から発病していることが判明し,届け出が行われた。これらの患児からはすべてS. sonneiが検出された。

 7月6日から集団発生として板橋保健所を中心に防疫活動が開始され,在籍児童159名(入院者を含む),患者家族64,教職員9,事務員2に対して検便を行なった結果,患者・保菌者は最終的に表のように,児童14名(2年生13,3年生1),家族3名,計17名であった。家族での菌検出は2家族でみられ,二次感染と考えられた(患児→弟と父,患児→母)。児童の発病日は13名中11名が7月1日であった。

 児童13名の症状は,最高体温38℃台が3名,39℃以上が9名あり,うち1名で熱性けいれんがみられた。便回数1日10回以上が6名,血便が2名にみられた。

 この学校では給食はなく,弁当を持参ないしは近くの店から購入しているため,購入先の調理品および調理従事者の菌検索を行なったがすべて赤痢菌陰性であった。学校内の直結栓および受水槽経由給水の細菌検査も陰性であった。

 患者の大部分は席の近い2年生児童で,7月1日に集中的に発生しており,単一暴露と考えられたが,共通食品は特定できなかった。家族を介しての感染も考慮されたが,保菌者の父親は最近の渡航歴もなく,多忙で患児との接触もほとんどないため否定的であった。患児らは入院後も緊密な集団行動を取っており,この中に赤痢菌が迷入すれば感染が拡大するのは当然と思われた。

 7月14日以降新たな感染者は発見されず,同20日現地対策本部は解散された。

 (2)分離菌の性状

 分離されたS. sonneiはすべてSM耐性で,CP,TC,KM,ABPC,NA,ST,FOM,NFLXなどには感受性であった。なお,本菌のコリシン型は,Gillies & Brownら(1966)が報告した15型であった。



東京都立豊島病院
感染症科 相楽 裕子,角田 隆文,新田 義朗
小児科  内山 晃,白井 徳満
板橋区板橋保健所 矢野 久子,松崎 奈々子
東京都立衛生研究所微生物部 松下 秀,太田 建爾


赤痢患者・保菌者一覧





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