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Vol.13 (1992/4[146])

<国内情報>
長野県におけるライム病の血清疫学調査


 ライム病は厚生省の希少感染症診断向上事業として,平成元年度から国立予防衛生研究所を中心に研究が開始され,当所も協力機関として,調査の一部を分担している。

 長野県は北海道に次いでライム病患者の発生が多く,ライム病のベクターであるマダニ類の生息環境に適した山岳地域が多い。これらのことから当県内におけるライム病の実態を究明する一環として,1990年にマダニ類の分布,およびそれらのBorrelia burgdorferiの検索を実施した。マダニは全県内に分布し,シュルツェマダニ(Ixodes persulcatus)から21.3%,ヤマトダニ(I. ovatus)から25.1%にB. burgdorferiを検出した。このような状況のもとに,当県内住民におけるB. burgdorferiに対する血清抗体の保有状況を調査し,ライム病の侵淫状況を把握した。

 対象者は,当県内4地域の一般住民(1地域)および林業従事者(3地域)成人1,123名で1990年11月から1991年6月に採血した。血清抗体価の測定はB. burgdorferi B31株を抗原(国立予防衛生研究所からの供給および自家製の抗原スライド)として,IFA法(IgA,IgG,IgM混合)により行い,160倍以上を陽性と判定した。一部の抗体価の高い被験者については,再度抗体価の測定を行った。

 B. burgdorferiに対する抗体陽性率は,一般住民(木島平村:901名)では0.89%であったが,同村の部落間に有意差は認められなかった。当県の一般住民に対する調査は,堀内らが(1989年,臼田町:100名)実施し,17.0%が陽性と報告しているが,今回の調査地域より非常に高率であった。これらのことは,汚染マダニの分布等と関係があると思われる。

 ハイリスクグループと思われる林業従業者は,大町保健所管内振動病受診者(小谷村,美麻村等:109名)6.4%, 臼田営林署勤務者(98名)6.1%,および野沢温泉村(15名)0%であった。野沢温泉村は対象者が少なかったためこのような結果になったと思われる。他の2地域は,堀内ら(1989年)の3営林署勤務者の報告8.3%とほぼ同様であり,静岡県(岡田ら,1990年)および北海道(井口ら,1988年)の自衛隊員における成績(9.4%,6.0%)ともほぼ同様の結果であった。臼田営林署勤務者のマダニ刺傷のアンケート調査を行い,回答のあった70名中,48名(68.6%)にマダニ刺傷歴が認められた。抗体陽性者とマダニ刺傷回数の関係は認められなかった。さらに,同一人で1988年と1991年に採血できた40名の抗体価の推移を比較した。1名が抗体の上昇,3名が160倍以上の抗体を持続しており,3名が80倍以下に低下していた。大町保健所管内の抗体陽性の7名は半年後にすべて陰性となった。以上のことから一般住民より林業従事者の抗体陽性率が高く,ハイリスクグループであることが再認識され,これらの人達へのライム病に対する啓蒙活動が必要と思われる。

 当県マダニ分離株は数種類の抗原性状に分類されることから,これらを抗原としてこの種の調査および疑い患者の血清検査等を行い,流行株を推定する際の一助としたい。



長野県衛生公害研究所 村松 紘一,山岸 智子,矢島 弘志
信州大学医学部    内川 公人,仲間 秀典


ライム病の血清疫学調査結果





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