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Vol.13 (1992/4[146])

<特集>
風しん・伝染性紅斑 1982〜1991


 風しんと伝染性紅斑はともに妊婦にとって重要なウイルス感染症である。両者とも数年の間隔をおいて流行し,過去の発生パターンからみて1992年はともに流行の周期にあたっている。

 伝染性紅斑の患者報告は1986年に増加し,1987年に全国的流行となった。伝染性紅斑の1991年および1992年第11週までの週別患者発生カーブは,1986年とその後の増加パターンに酷似しているので,1992年は1987年なみの全国的流行が予想される。

 風しんは1982年以降2回,1982年および1987年をピークとして流行した。1987年の風しん流行は伝染性紅斑と同時期に一致して起こっている。今回も1992年に入って風しんの患者発生報告が増加し始めており,流行の兆しがみられる(図1)。地域別には,第11週現在,福島県,島根県,沖縄県,広島市で一定点当たり発生数の増加がめだつ。

 過去10年の患者発生をブロック別にみると(図2),北海道は全国的流行とは異なる年(1985,1989年)に流行がみられた。1990年は全国的に患者発生が低レベルであった。1991年は東北,中国−四国でやや増加し,流行の前兆とみられる。

 風しん患者の年齢分布(図3)は5〜9歳が中心であるが,非流行年には4歳以下の低年齢児の割合がやや大きい。この傾向は伝染性紅斑において,より明確にみられる(図4)。

 風疹ウイルス分離を実施している機関が限られているため,病原体情報の検出報告は少ないが,地域によっては毎年検出されているので,風疹ウイルスは日本に常在しているとみられる。

 厚生省流行予測事業において1990年秋に実施された女子の風しん抗体調査成績について県別年齢別HI抗体陰性率(感受性率)を図5に示した。流行の中心となる5〜9歳群の抗体陰性率は地域差が大きく,西高東低の傾向がみられる。一方,0〜4歳は地域差が少なく全国的に陰性率が高い。

 同成績について1987年を中心とした流行の影響をみるために1986,1988,1990年の抗体陰性率の年齢分布を比較したのが図6である。この図では調査対象者の出生コホートが同一縦軸上にくるように年齢をずらして作図してある。1987年の流行をはさんだ1986年と1988年の比較では,10歳以下で抗体陰性率が低下し,風しんの流行がこの年齢群で起こったことを示している。14歳以上の10代の陰性率の低下はワクチン接種効果である。一方,1989年,1990年は患者発生が低レベルであった(図1)にかかわらず,1988年に比べ低年齢群に陰性率の低下がみられた。一部小流行を報告した地域があるので,この反映,またはワクチン効果が示唆される。低年齢群のワクチン接種率は年ごとに上昇し,1990年の5〜9歳群女子の風しんワクチン(MMRワクチンを含む)接種率は15%であった。

 ワクチン接種群の抗体陽性率は高く,全年齢合計で94%であった。これを反映してワクチン定期接種を受けた年齢層(1990年で14〜27歳女子)の陰性率は極端に低くなっている。



図1.患者発生状況(感染症サーベイランス情報)
図2.ブロック別風しん患者発生状況(感染症サーベイランス情報)
図3.風しん患者の年齢分布(感染症サーベイランス情報)
図4.伝染性紅斑患者の年齢分布(感染症サーベイランス情報)
図5.県別HI抗体陰性率(女)1990年(厚生省流行予測調査)
図6.HI抗体陰性率の年別比較(女)(厚生省流行予測調査)





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