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Vol.13 (1992/3[145])

<国内情報>
学校給食によるSalmonella Enteritidis食中毒−千葉県


 わが国におけるSalmonella Enteritidis(以下.E)食中毒は1989年以降急増し,千葉県内でもファージ8型,34型による集団発生を経験している。今回,千葉県F市で学校給食を原因とする大規模な.E食中毒が発生したので,その概要を報告する(表)。

 1991年11月27日午前10時15分頃,F市立Y小学校で流感または食中毒が発生している旨の電話が所轄保健所にあった。ただちにY小学校の欠席者の状況を調査したところ,在籍者328名中149名が下痢,腹痛,発熱等で欠席していることが確認された。さらに,同小学校と同じO共同調理場の給食を喫食しているO小学校,O中学校でも同様な患者発生がみられていることが判明した。

 患者は11月22日18時頃から発生し,23日の114名をピークに12月1日まで10日間にわたって認められた(図)。3校の患者数は児童,生徒1,394名中513名,教職員75名中22名の計535名(発症率36.4%)で,うち8名(児童2名,生徒5名,職員1名)が入院した。主要症状は腹痛(89.7%),下痢(86.9%),発熱(73.5%)で,他に脱力感,悪寒等が認められた。

 原因調査は保健所と衛生研究所で行った。当初有症児童が受診した3つの医療機関では風邪との診断がなされたが,当所で検査した患者11名全員の便から.Eが検出され,また,保健所と2医療機関でもサルモネラを分離したため,当該菌による食中毒と決定した。最終的には患者59名中40名から.Eを分離した。

 分離株は薬剤感受性試験でSMに耐性を示し,約60Kbのプラスミド単独保有株であった。また,学校等由来ごとに11株を選び,国立予防衛生研究所にファージ型別を依頼したところ,全株が4型に型別された。

 発症者の共通食がO共同調理場の給食に限られていること,3小中学校の使用水の残留塩素,細菌検査等に問題が無かったことなどから,O共同調理場が原因施設と推定された。サルモネラの潜伏期間を考慮すると,原因食として11月20日頃からの給食が疑われるが,20,21日の給食は入手できなかったため,検査は保存されていた11月22日と25〜29日の検食(23,24日は給食は無し),器具,器材の拭き取り検体および従業員の検便等について実施した。X2検定では22日の給食(桜すし,串フライ,さつまポテト,塩もみ野菜,小袋ソース,麦芽ゼリー,牛乳)が最も疑われたが,いずれの食品からも.Eは検出されなかった。また,25〜29日の給食,拭き取り検体,使用水からも当該菌が分離されなかったため,原因物質,汚染経路,発生原因の解明には至らなかった。なお,調理従事者1名と配膳員1名から.Eが検出されたが,両名とも22日の給食を喫食していたため,因果関係は不明である。また,今回の原因菌の血清型とは異なるが,食材納入業者からS. Livingstoneが,マグロの切り身からS. Hadarが分離された。

 今回の事例では,11月22日から患者発生がみられたにもかかわらず,探知が27日と遅れた。これは23,24日が連休だったこと,医療機関が風邪と診断していたため学校側もそのような判断に傾いていたことなどが要因と思われる。過去に県内で発生した学校給食を原因とする食中毒でも,風邪という判断がなされたために事件の探知が遅れ,検食等の入手が困難となった事例があったが,学校に対するより一層の衛生思想の普及,啓蒙の必要性を感じた事例であった。



千葉県衛生研究所
小岩井 健司,岸田 一則,山口 マリ子,内村 真佐子,鶴岡 佳久


表 S. Enteritidis食中毒の概要
図 日別患者発生数





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