HOME 目次 記事一覧 索引 操作方法 上へ 前へ 次へ

Vol.13 (1992/2[144])

<特集>
日本脳炎 1987〜1991


 我が国の日本脳炎サーベイランスは,厚生省流行予測事業において患者発生報告,肥育豚の感染抗体調査(ブタ情報)およびヒトの抗体調査が実施されている。また,蚊またはブタからの日本脳炎ウイルス(JEV)の分離によってウイルス散布が追跡され,病原体情報に報告されている。本報告は1987年以降の上記調査成績の要約である(前回報告は 本月報Vol. 9,bPを参照)。

 近年我が国では日本脳炎患者発生数が減少し(表1),1978〜80年に一時増加の傾向がみられたが,その後は小康状態を保っている。しかし,90年は患者数が1980年以降では最も多かった。

 1987年以降4年間の合計患者数は150例,死亡23例,致死率は15.3%である。患者発生は九州地方が圧倒的に多く合計80例(53.3%),次いで近畿地方が26例(17.3%)であった(表2)。1990年は九州,近畿以外の地域での患者発生が他の年よりも多かった (本号22ページ,1990年日本脳炎確認患者参照)。 患者発生は例年8〜9月に集中している。1990年は8月35例,9月16例,10月3例であった。患者の年齢(表3)は60歳以上の高齢者が49%であった(1984〜86年は43%)。性比は0.92(1984〜86年は1.42,男54:女38)で,60歳未満の性比1.30(1984〜86年2.25)に対し,60歳以上では0.64(1984〜86年0.82)であった。

 ブタ情報は我が国独自のサーベイランス方式である。日本ではブタがJEVの増幅動物なので,ブタにおけるJEV抗体の出現をみることによってその地域のウイルスの動きを知ることができる。この調査は全国の県および地方衛生研究所が担当している。このブタ情報によれば,JEVの感染は毎年6〜7月に沖縄から始まり,すみやかに他の地域に拡大する。1987〜91年で,ウイルスの散布が最も広範であったのは1990年で,この年は10月までに北海道,岩手,山形を除く日本全土で,検査したブタのJEV感染が確認された。流行終了後のウイルス散布状況を図1に示した。

 病原体情報において,1980年以降JEV分離を報告したのは11地研である。現在までに合計1,132株の分離が報告された(表4)。分離検体源はブタ(血液)63,蚊1,069である。ブタからの分離は4地研から報告された。大分県の1986年6月の3例(ブタ2,蚊1)以外はすべて7〜9月に分離され(表5),この時期JEVが蚊−ブタ−蚊のサイクルで散布していることを直接証明している。

 1987年以降,ヒトの抗体調査は9県で実施された。検査成績は患者およびブタ情報にみられるウイルス散布状況を反映して,沖縄,熊本,大分,島根県で抗体保有率が高い(図2)。また,1990年の成績では新潟県の抗体保有率が高く,宮城,大阪が低かった。

 なお,1989年以降のワクチンでは従来の中山・予研株に代えて,流行株に対する中和抗体産生性がより高い北京−1株がワクチン株として使用されている (本月報Vol.10,bUを参照)

 1991年の状況は1992年1月末現在の暫定数によれば,患者発生は少なく,ブタ情報でも北海道,東北の全県,および関東の一部でブタの抗体保有率が50%未満にとどまった (本号参照)



表1.日本脳炎患者確定数 1965〜1990年(日本脳炎患者個人票による)(厚生省流行予測事業)
表2.日本脳炎確認患者発生地域 1987年〜1990年(厚生省流行予測事業)
表3.日本脳炎確認患者年齢分布 1987年〜1990年(厚生省流行予測事業)
表4.年別報告機関別日本脳炎ウイルス検出状況 1980〜1991年
図1.ブタの日本脳炎ウイルス感染状況(1990年)(厚生省流行予測事業)
表5.年別月別日本脳炎ウイルス検出状況 1980〜1991年
図2.県別日本脳炎ウイルス中和抗体保有率の比較 1990年(厚生省流行予測事業)





前へ 次へ
copyright
IASR