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Vol.13 (1992/1[143])

<国内情報>
大阪府におけるコガタアカイエカからの日本脳炎ウイルス分離状況


 当所では,1967年以来,流行監視の目的から,コガタアカイエカの発生量や蚊の日本脳炎(日脳とする)ウイルス感染状況を調査してきた。

 1991年は,表1に示したように,府下5ヵ所の牛,豚舎で6月24日から9月9日まで,週1回,蚊を採集し,日脳ウイルスの分離を試みた。採集方法は,ドライアイス−ライトトラップと捕虫網による日没後1時間採集である。原則として,未吸血のコガタアカイエカ100匹を1プールとした。プールごとに乳剤(2ml)を作り,五十嵐によって開発されたヒトスジシマカ培養細胞クローンC6/36を用い,ウイルス分離を行った。分離されたagentsについては,補体結合反応によって予備的に同定し,中和反応によって最終的に日脳ウイルスと判定した。

 合計241プールの蚊について検査し,陽性プール数が32で,感染率(Chiang and Reeves(1962)の式による)は0.142%であった。個々の採集地の感染率は,泉佐野市が0.343%と高かったが,熊取町では0.088%にすぎなかった。他の3ヵ所では,日脳ウイルスは分離されなかった。

 次に,1981〜1991年について,日脳ウイルスが分離されなかった採集地の数,全採集地中の最低と最高の感染率等を表2に示した。取り扱った期間は7〜8月中とした。

 1981〜1987年には,全ての採集地で日脳ウイルスが分離されたが,分離されなかったとしても,そのような採集地は1ヵ所にすぎなかった。しかし,1988年以降になると,毎年,日脳ウイルスが分離されない採集地が見られるようになり,多い年にはその数は3ヵ所となった。

 全採集地中の最高感染率は,1982年の0.171%と1983年の0.262%を除くと,他の9年間は0.3%以上と高かった。また,最低感染率は日脳ウイルスが分離されなかった採集地があった年を除くと,1987年の0.245%以外は,0.013〜0.029%にすぎなかった。

 府下全域的にみると,感染率が非常に高い地域が認められる一方で,他の地域では感染率が低いか,あるいは蚊からの日脳ウイルスが分離されないという傾向が,近年特に著しいように思われる。これは,蚊の採取地として理想的な,周囲にできるだけ広い水田を残している豚舎が,近年ほとんどなくなってきたことが関係しているかもしれない。そこで,本年の採集地の中から,まだ豚舎のすぐ近くにかなりの水田が残っている泉佐野市と,豚舎近くの水田がなくなってしまった美原町とを選び,調査を始めて以来の日脳ウイルス分離成績を表3に示した。また,7〜8月中のコガタアカイエカ採集数の最高値(蚊のピークとする)を併せて示した。なお,蚊は週1回,畜舎内にライトトラップを終夜点灯し,採集した。

 蚊のピーク値は,泉佐野市では7.1〜38.2万匹であったのに対し,美原町では0.1〜3.4万匹にすぎなかった。また,泉佐野市では,毎年蚊から日脳ウイルスが分離され,感染率は0.092〜0.418%であった。美原町では,9年中3年は日脳ウイルスが分離されず,感染率は0〜0.265%であった。

 蚊から日脳ウイルスが初めて分離された時期は,泉佐野市では最も早い年は7月12日であり,最も遅い年でも8月1日であった。美原町では1983年と1987年には,泉佐野市と同じ日に日脳ウイルスが分離され始めたが,それ以外の年では,泉佐野市より遅く,最も早い年でも7月27日であり,最も遅い年では8月22日であった。

 これらの結果は,府下におけるコガタアカイエカの発生や日脳ウイルス感染蚊の効率的生産に好適な条件を備えた地域の局在化を反映したものと考えられた。近年の低流行の一因として,日脳ウイルスの感染環に係わる環境条件の変化をも考慮すべきであろう。



大阪府立公衆衛生研究所 中村 央,吉田 政弘,木村 明生,弓指 孝博
            木村 朝昭,峯川 好一,魚住 光郎


表1.各採集地におけるコガタアカイエカからの日本脳炎ウイルス分離成績(1991年)
表2.1981〜1991年におけるコガタアカイエカからの日本脳炎ウイルス(JEV)分離成績
表3.コガタアカイエカの発生量が異なる採集地における蚊からの日本脳炎ウイルス(JEV)分離成績





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