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Vol.12 (1991/12[142])

<国内情報>
三重県におけるA型肝炎


三重県では,過去数年,桑名,鈴鹿,尾鷲地域あるいは施設でA型肝炎の流行が繰り返されている。そこで我々は,その流行状況調査を病原学的,血清学的に行った。

A型肝炎患者発生調査は,三重県の小児科および病院等の55の医療機関から報告された事例について,月別発生数,地域別患者数,年齢別発生数としてまとめた。検査材料は,県下の鈴鹿,志摩,尾鷲地区の3ヵ所に検査定点病院を設け,臨床的にA型肝炎が疑われた患者およびその家族の便,血清を採取しウイルス検索,中和抗体の測定を行った。

1990年鈴鹿地区の某施設における集団発生例については,患者自身の血清を採取し,中和抗体測定を行った。年齢別の抗体保有率の検査は,1990年感染症サーベイランスおよび流行予測調査で集められた血清を用いた。

図1は,1988年から1990年の三重県におけるA型肝炎の月別患者報告数を示した。毎年1月に患者が報告され始め,2月から3月に最高となりその後減少し,6月に終息する消長であった。

図2は,1988年から1990年の三重県における地域別患者構成比を示した。各年別の患者発生率を地域別にみると,1988年は患者総数83名で,鈴鹿地区の33.7%がトップで,尾鷲地区の26.5%,桑名地区の20.5%と続き,津,上野地区では患者発生は認められなかった。1989年は患者総数97名で,トップは尾鷲地区の45.4%で,鈴鹿地区の30.9%,桑名地区の16.5%と続いた。1990年は患者総数92名で,鈴鹿地区が断然トップの62.5%で,他の地区は10%以下であった。

図3は,1988年から1990年の年齢別患者報告数を示した。各年とも30歳から40歳の発生数が多いが,0歳から10歳にも発生し,2峰性を示した。また,年とともに0歳から15歳の低年齢の患者数が増加しており,その増加割合は,1988年を基準とすると,1989年は1.5倍,1990年は2.5倍と大きくなっていた。55歳以上で再び患者数が増加傾向にあった。

図4は,年齢別IgG抗体保有状況を示した。0歳の低年齢から30歳までは,ほとんどが抗体を持たない感受性者であったが40歳から急激に抗体保有率が上昇していた。

1989年に検査定点病院に入院した患者52名とその家族の便と血清を経日的に採取した。便は抗原補捉PCR法,HAT−ELISA「生研」キットを用いてウイルス検出を行い,血清はIgM抗体の測定を行った。鈴鹿地区では19家族中7家族,36.8%,志摩地区では15家族中1家族,6.7%に家族感染が認められた。家族内感染経路調査の結果,父から子への事例が4例で最も多くなっていた。感染源は特定しえないが,同時感染が3例あった。家族内で初発事例が認められてから2次感染までの期間は17日から34日であった。

1990年4月から6月にかけて鈴鹿地区の某施設で寮生61名中43名,70.4%に集団発生がみられた。この施設の寮生の年齢は16歳から61歳にわたり,平均30.4歳であった。1990年4月13日に初発患者が発生し,流行は2ヵ月間にわたっていた。患者に付き添った母親1名が発症した。寮生の回復期のHA抗体保有率は83.9%であった。寮生の流行に引き続き,職員のなかにもA型肝炎の発生が認められた。寮生の流行に先立ってボランティアとして来ていた学生が肝炎症状を呈しており,その学生が所属していた学校内でも肝炎の発生が認められた。



三重県衛生研究所 石井堅造 山中葉子 広森真哉 杉山 明 桜井悠郎 石須哲也


図1.A型肝炎月別報告数
図2.地域別患者構成比
図3.A型肝炎年齢別報告数
図4.A型肝炎抗体保有率





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