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Vol.12 (1991/12[142])

<国内情報>
調理パンによるSalmonella Oranienburg食中毒事例−佐賀県


1.発生概況

1991年6月11日,鹿島市の某医院に幼稚園児の食中毒様患者が相次いで受診したため,不審に思った医師が幼稚園に連絡し,園医から鹿島保健所へ通報があり事件が探知された。

患者が1か所の幼稚園に集中して発生していることが判明したため,保健所では同幼稚園を中心に調査を開始した。

その結果,原因食品は,同市内製造所で6月10日に製造された調理パンであることが判明した。このパンは,同幼稚園の昼食用に146個製造されていたが,家庭に持ち帰った園児もいたため,家族を含め149名が摂食していた。このうち,これらの家族を含む137名(91.9%)が平均23.8(≦4〜64)時間の潜伏期間を経て発症しており,当日の欠席者および調理パンを食べなかった園児は発症していなかった。

患者の主な症状は,発熱(123名:89.7%,最頻階級値39.0〜39.5℃:46名),腹痛(111名:81.0%),下痢(95名:69.3%,平均2.6回),嘔吐(56名:40.8%,平均2.0回),頭痛(53名:38.6%)であった。

2.検査成績

6月11日に採取したふん便104検体のうちパン製造所従業員(1名),幼稚園児および園の職員に由来する87検体,ならびに発症した園児が家庭に持ち帰っていた食べ残しの調理パン2検体から,Salmonella O7群が検出された。園児および園職員,パン製造所従業員のふん便ならびに調理パンから検出したサルモネラ菌株のうち,12菌株について血清型別試験を実施したところ,すべてSalmonella Oranienburg(O7:mt:−)であることが判明し,当該菌を原因菌と決定した。

調理パンの汚染原因については,調理パンの検食が保存されていなかったため,製造所の製造器具,調理パン原材料などから菌検索を行ったがサルモネラは検出されず,さらにS. Oranienburgが検出されたパン製造所の従業員は園児と同じ調理パンを摂食していたため事件以前からの保菌か否かが判断できず,結局解明に至らなかった。

患者由来1菌株の薬剤感受性試験結果(他の由来株も同様な成績)を表に示した。

3.考察

今回の場合,患者の大部分が1か所の幼稚園で発生したため事件が早期に探知され,検査材料の採取後,原因食品の追求,原因菌決定などが速やかに行われた。

しかし,患者の多くが4〜6歳であったため高熱が数日間継続した例も認められ,また,発生から1か月後の検便では,発症した園児の約7割が保菌していたことが判明するなど,患者の家族間で不安感が広がった。

このため,保健所や保健環境部の担当課,鹿島地区の医療施設では,園児の家族,幼稚園に対するサルモネラ感染防止方法の指導など,事件発生後数か月間にわたってさまざまな対応が継続された。サルモネラ菌による食中毒の怖さを再確認させられた事件であった。



佐賀県衛生研究所 山村勝幸 出 美規子 田口外代雄 土田龍馬
佐賀県鹿島保健所 溝上 茂 松尾靖弘 村上隆昭 田中博輝 大坪 了 山口正智


食中毒患者由来Salmonella Oranienburgの薬剤感受性





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