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Vol.12 (1991/6[136])

<国内情報>
大阪府における流行性脳脊髄膜炎患者の発生


流行性脳脊髄膜炎患者はわが国では第二次世界大戦後の1947年に3,373人の発生があったが,次第に減少し,最近3年間は毎年10人前後の発生しか見られていない(1988年9人,1989年10人,1990年10人)。大阪府においても1988年に1人の患者発生があった後,1989年,1990年は発生がみられなかった。しかし本年3月になって,真性患者1人の発生があり,さらに保菌者検索によって3人の菌陽性者が見つかったのでその概要を報告する。

患者は11歳の女児で,3月20日夜から急激な発熱(40℃),出血疹がみられ,翌21日朝には意識障害を呈したため緊急入院となった。入院時の髄液検査において多数のグラム陰性双球菌を認めたため,流行性脳脊髄膜炎を疑い伝染病棟に隔離された。その後,入院時に採取された髄液,血液,咽頭ぬぐい液の培養検査でNesseria meningitidis serogroup Cが検出された。早期の化学療法(ABPC+CTX)により,除菌は比較的速やかであり,神経的後遺症は残さなかったが,下腿の大半と大腿および上肢の一部に皮下壊死と潰瘍化をきたした。

患者の真性決定にともない,接触者の保菌者検索を行った。検査対象は患者の家族4人(父,母,長兄,次兄),学校関係29人(クラスメイト22人,クラブ・共同掃除等の接触者7人),その他1人であった。検査の結果,クラスメイト3人から患者と同血清型の髄膜炎菌を検出した。検査材料は咽頭ぬぐい液であり,滅菌綿棒で採取し,0.2%活性炭末加トランスポート培地を輸送培地として使用した。分離培養は検体採取後2〜3時間以内に開始した。

分離培地には血液寒天培地(BA),チョコレート寒天培地,サイアマーチン改良培地(TM:病原ナイセリア選択剤無添加),VCN(バンコマイシン,コリスチン,ナイスタチン)添加BA(VCN−BA)およびVCN添加TM(VCN−TM)の5種類の培地を用い,炭酸ガス培養を行った。

菌陽性の3検体ともVCN添加培地によってのみ髄膜炎菌の検出が可能であり,BA,チョコレート寒天培地およびTMでは検出できなかった。また,3検体中2検体は24時間培養でVCN−BAおよびVCN−TMの両方に髄膜炎菌の発育がみられたが,1検体は48時間培養によってはじめてVCN−BAのみに1コロニーの髄膜炎菌の発育を認めた。この保菌者の鼻咽頭粘膜のように常在菌などの雑菌が多く含まれている検体からの髄膜炎菌の検出にはナイセリア選択剤を添加した培地の使用が不可欠であると考えられた。

患者および保菌者から検出された髄膜炎菌計4株の薬剤感受性試験の結果は,試験したPCG,ABPC,PIPC,CER,CEX,CTX,CET,CPZ,CFX,CEZ,EM,TC,MINO,CP,KM,GM,AMK,OFLXの18薬剤すべてに感受性であった。

保菌者は3人とも軽い上気道炎を呈していたが,投薬(2人はABPC4日間内服,1人は治療薬剤不明)により軽快し,菌は陰性化した。また,その後同地区での患者発生はみられていない。

髄膜炎菌は患者発生のないときでも保菌率が高い場合があると言われているが,現在のわが国における非流行時の保菌率などについて詳しく調査された報告はない。患者発生数の減少から推測して,わが国では保菌者も減少していると考えられる。しかし,感染源が完全に撲滅された訳でもなく,また,諸外国にはわが国よりはるかに罹患率の高い国も多く,これらの国からの輸入感染例も考えられ,今後も散発的に患者が発生する可能性があり注意が必要であろう。



大阪府立公衆衛生研究所 勝川千尋 牧野正直





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