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Vol.12 (1991/5[135])

<国内情報>
カキを原因食品とするSRSVによる食中毒−兵庫県


1991(平成3)年2月に兵庫県内で発生した,カキによる食中毒患者からSRSVが検出された。

15名の宴会参加者のうち8名が発症し,有症者の年齢は平均43.8歳(25〜64)であった。喫食は2月21日6時30分頃で,22日から23日にかけて発症し,潜伏時間は平均32時間(18時間30分〜42時間30分)であった。初発症状は腹痛(2名),下痢(3名)および嘔気(2名)であり,初発も含めた患者の症状は腹痛(2名),下痢(6名),嘔吐(3名),嘔気(4名)で,4名では軽度の発熱(平均37.2℃)が認められた。

喫食調査によると,8名の有症者全員と7名の無症状者のうち3名が酢ガキを食べており,原因食品であることが疑われた。

発症が金曜日の夕方から土曜日にわたっていたため,月曜日に全員が顔を合わせて初めて食中毒らしいことが判り,有症者全員が病院で診察を受けた。翌日の26日に保健所へ届出があり,検体は5病日目にあたる27日に採取された。

有症者全員の便の遠心濃縮物を電子顕微鏡(EM)により鏡検したところ,3名からSRSV(直径35nm程度)と思われるウイルス様粒子が観察された。しかし,検出されるウイルスはごく微量で,免疫電顕は行えなかった。また,患者のペア血清を採取することができず,既存の抗原を用いたIEM,ウエスタンブロット(WB)による特異抗体の上昇も確認することはできなかった。このため,SRSVが検出された3名の便の抽出物をすべてあわせてポリアクリルアミド電気泳動を行い,WB法で抗原をニトロセルロース膜に転写,抗原ストリップを作製した。過去の3事例でSRSV感染が確認された3名のペア血清と,今回作製した抗原ストリップを反応させると,2名の血清が62kD付近の抗原と反応し,この抗原に対する抗体価の上昇も認められた。

今回の事例では,ウイルスが検出された3名は嘔吐症状が現れた3名と一致しており,他の臨床症状(下痢など)ではこれら3名より重篤な症状を呈した患者もいたが,彼等からはウイルスは検出されなかった。これは従来から言われているような,SRSVと嘔吐とのつながりを反映した結果と思われる。



兵庫県立衛生研究所 近平雅嗣





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