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Vol.12 (1991/5[135])

<国内情報>
「腸管出血性大腸菌の疫学的臨床医学的研究」班会議


平成3年4月15日

腸管出血性大腸菌のわが国における分布状況の調査研究報告−地方衛生研究所分離株の解析−



調査目的:わが国における病原大腸菌検出状況は,地研・保健所をはじめ医療機関等から組織侵入性大腸菌(EIEC),毒素原性大腸菌(ETEC),病原血清型大腸菌(EPEC)およびその他に分けて報告を受け,「病原微生物検出情報月報」に収載してきたが,毒素産生性の詳細な情報は一部食中毒集団事例を除いて未確認のまま残されている。とくに,「病原大腸菌その他」にはEHECまたはVTECが含まれている可能性があるし,EPECの中にもVT産生菌が含まれている可能性を否定できない。したがって全国の地方衛生研究所を対象に分離・保存されている病原大腸菌についてVT毒素産生性を調べ,その分布を調査する。

調査方法:

1.地方衛生研究所で1989年および1990年に分離・保存されている病原大腸菌菌株(EIECおよびETECを除く)のVT産生性および血清型を調べる。

2.VTの検出は送付された菌株について,Vero細胞毒性試験,ラテックス凝集反応およびPCR法を併用して都立衛生研究所および国立予防衛生研究所で行う。

3.地方衛生研究所で過去に経験した腸管出血性大腸菌による下痢症および溶血性尿毒症症候群の症例を調査する。

調査結果の概要:

1.全国71地研のうち51地研(71.8%)より回答があった。菌株の送付は31地研から583株,症例は8地研から40例の報告があった(表1)。

2.1989年以降の病原大腸菌分離株575株の内,VT産生性陽性を示したのは,15株(2.6%)であった。VT陽性株の血清型はO157:H7(10株),O26:H11(3株),O111:H−(2株)であった(表2)。

3.病原大腸菌のVero毒素検出は,培養細胞法,ラテックス凝集反応法(LA法),ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR法)によったが,VT1およびVT2産生株では何れの方法でも検出可能であった(表3)。

4.1989年以降のVT産生性大腸菌は,国内の散発事例のみから検出され,海外由来事例および集団発生事例からは検出されなかった(表4)。

5.1989年以降に分離された575株のO血清型は36の型に分布していたが,この内,VT産生菌はO26,O111,O157の3血清型のみに検出された。各血清型におけるVT産生菌の出現率はそれぞれ12.5%,5.1%,90.9%であった(表5)。

6.VT産生菌が分離されたのは,大阪府,奈良県,静岡県,東京都,神奈川県,島根県および川崎市の7地研であった(表6)。

7.VT産生性大腸菌が分離された15事例中出血性下痢を伴ったのは4例,HUSを併発したのは2例であった(表6)。

8.HUSを併発したが,VT産生性陰性の大腸菌が分離された事例が2例あった。その血清型はO18:H7およびO26:H−であった。

研究協力者:

東京都立衛生研究所 甲斐明美 尾畑浩魅

国立予防衛生研究所 伊藤健一郎 田村和満 荒川英二 島田俊雄 中村明子



国立予防衛生研究所細菌部 渡辺治雄
東京都立衛生研究所微生物部 工藤泰雄


表1.地方衛生研究所からの回答状況
表2.大腸菌のVero毒素産生性検討成績
表3.Vero毒素検出法の相互比較
表4.Vero毒素検討成績
表5.Vero毒素検討成績表5.大腸菌の血清型別Vero毒素産生性検討成績
表6.Vero毒素生性大腸菌の概要





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