HOME 目次 記事一覧 索引 操作方法 上へ 前へ 次へ

Vol.12 (1991/4[134])

<特集>
ビブリオ感染症


わが国におけるコレラ患者の発生は以前には東南アジアやインドからの帰国者にかぎられていたが,近年では海外渡航歴のまったくない者にもその発生をみるようになった。表1にみられるように1965年以降国内発生をみなかったコレラも,1977年には輸入例に起因すると思われる集団発生が和歌山県有田市に起こり,また,翌年には東京で折り詰め弁当中のロブスターが原因食品と推定されたコレラ流行を経験した。それ以降,毎年のように患者の発生をみているが,その多くは海外からの輸入例である。一方,1989年には名古屋市を中心とした集団発生があり,患者は群馬県,愛知県,愛媛県,東京都,京都市,静岡県,新潟県と広域にまたがった。1990年に入ってタイからの帰国者にコレラ患者の異常な発生(1月から4月の初めまでに29名の真性患者)をみたが,これらのうちの大部分はツアーの5団体に発生したものであった (本号参照)。 これら分離株のファージ型別の結果から,タイからの帰国者に発生したコレラは複数の感染ルートに起因していることが推察された。

わが国におけるNAGビブリオ(V. cholerae, non-O1およびV. mimicus)による下痢症は,コレラと同様に東南アジアやインドからの帰国者に限られていたが,最近では国内発生と思われるものもみられている。その多くは散発例であるが,1978年〜1990年に11例の集団発生もみられている (児玉ら,感染症誌,65,1991,病原微生物検出情報,Vol.11,No.11)。 図1は1985〜1990年に地研・保健所から報告された両菌種の検出状況である。それらの多くは海外輸入例で,その発生は夏期に集中する傾向がある。

図2は1985〜1990年に地研・保健所から報告されたV. fluvialisの検出状況である。本菌については,わが国でも1978年頃から調査がなされるようになり,海外渡航帰国者事例だけでなく国内での下痢症事例からも本菌が分離されるようになった。しかし,そのほとんどの事例は腸炎ビブリオとの混合感染である。最近,V. fluvialisの分離された集団下痢症もみられているが,すべて腸炎ビブリオとの混合事例であった。

1985〜1990年に地研・保健所から報告された腸炎ビブリオの検出状況を図3に示した。腸炎ビブリオは毎年7月〜9月に多発し,この期間の発生は年間発生の約80%を占めている。食中毒統計(厚生省)によると,1989年の腸炎ビブリオ食中毒の事件数は322件,患者数は9,639であった。これは事件数において対前年比で51%増加し,患者数において84%の増加となったが,1990年は1989年に比べやや減少傾向にある。

病原微生物検出情報に速報として報告された腸炎ビブリオ集団発生のうち,患者数10人以上の事件について,年次別,規模別に事件数を示した(表2)。過去5年間の事件総数452のうち366件(81%)が患者数10〜49名の小規模発生であった。表3は,これら集団発生の原因菌のうち高頻度に検出された血清型を示したものである。O4:K8型の検出が例年1位を占めた。その他O4:K63,O1:K56,O4:K4等も毎年多く検出されている。



表1.わが国のコレラ患者等発生事例(1962〜1990年)
図1.月別V. cholerae, non-O1およびV. mimicus検出状況(1985〜1990年)−地研・保健所集計
図2.月別V. fluvialis検出状況(1985〜1990年)−地研・保健所集計
図3.月別腸炎ビブリオ検出状況(1985〜1990年)−地研・保健所集計
表2.腸炎ビブリオ食中毒の規模別,年次別事件数
表3.腸炎ビブリオ食中毒原因菌の上位血清型(事件数)





前へ 次へ
copyright
IASR