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Vol.12 (1991/3[133])

<国内情報>
インフルエンザ流行状況


北海道:A(H)型

北海道では2月に入ってからインフルエンザ様疾患の患者数が急増した。

施設別発生状況をみると,2月3日〜16日の休校数は11,学年閉鎖数は33,学級閉鎖数は46であり,報告のあった各学校の対象となる在籍者数は10,559人で,その内患者数は7,064人(66.9%),欠席者数は2,149人(20.4%)であった。

流行は函館市を含む道南地方に多く,その他室蘭市,苫小牧市,北見市,遠軽町に多い。

札幌市では2月4日にインフルエンザ定点で採取した38歳女性(発熱38.1℃,ワクチン接種なし)と感染症サーベイランス定点で採取した9歳男性(発熱39.5℃,ワクチン接種なし)の咽頭拭い液をMDCK細胞に接種し,2株のA(H)株を分離し,A/札幌/1/91(H),A/札幌/2/91(H)と命名した。両株は予研から分与されたフェレット標準抗血清のA/北海道/20/89(H)に512倍,A/四川/2/87(H)に256倍,A/貴州/54/89(H)に512倍のHI価を示した。

2月7日に集団発生のあった函館市の昭和小学校で10〜11歳の児童から採取した咽頭拭い液をMDCK細胞に接種した。7株のA(H)株を分離し,A/北海道1/91〜A/北海道/7/91(H)と命名した。ウイルスの分離された7人の症状は,発熱(37.7℃〜39.6℃),頭痛,咽頭痛,鼻汁,せき,倦怠感であり,2名に嘔吐,腹痛,下痢の胃腸症状があった。7名中3名は1990年11月と12月にインフルエンザワクチンの接種を受けている。

予研から分与されたA/貴州/54/89(H)のニワトリ標準抗血清(ホモ値512倍)に対して2株が128倍,5株が256倍のHI価を示した。



北海道立衛生研究所 桜田教夫 野呂新一

札幌市衛生研究所 吉田靖宏



横浜市:A(H)型,A(H)型

横浜市では,サーベイランス定点ウイルス調査において,1990年12月17日に市内北東部緑区の定点にて採取された検体から,今季初めてインフルエンザA香港(H)型ウイルスが1株検出された。この患者は12歳の男子で,39℃の発熱と上気道炎の症状を示した。

1991年1月になると,インフルエンザウイルスは毎週検出されるようになったが,ほとんどA香港型ウイルスであった。しかし,1月21日にはAソ連(H)型ウイルスが2株,さらに2月4日にも1株分離された。これら3株のウイルスは,いずれも市内南部の磯子区の定点から検出された。年齢は5歳の男女児と6歳の男児であった。38.0〜39.4℃の発熱と上気道炎がみられた。一方,A香港型の患者は,2〜3歳の幼児が3名いる以外は,11,12歳を中心にして8〜16歳の年齢層が占めていた。

定点ウイルス調査からは2月になってもA香港型ウイルスの検出が続いているが,集団かぜの初発は,1月17日に神奈川区と戸塚区のいずれも小学校でみられた。以後,1月30日までに合計7集団についてウイルス検出を行ない,現在調査中のものもあるが,その原因ウイルスはすべてA香港型ウイルスであった。それらの集団はいずれも小学校で,対象は3年生から6年生であった。これは定点ウイルス調査の年齢層と重なっていた。

抗原性状については,A香港型ウイルスは前季流行株よりも今季のワクチン株であるA/貴州/54/89に近い性質を示していた。Aソ連型ウイルスは3株とも今季のワクチン株であるA/山形/32/89に類似していた。これらの抗原性状を表に示した。

前季はA香港型ウイルス流行の後にB型ウイルスが比較的大きな規模の流行をみせ,今季はAソ連型ウイルスの流行が予想された。しかし,A香港型ウイルスは市内全域で検出されているが,Aソ連型ウイルスは磯子区の区域だけで検出されているだけである。インフルエンザの流行はこのまま終息するのか,あるいはAソ連型ウイルスに変わるのか予想し難い。定点ウイルス調査と集団かぜ調査における血清抗体価測定とを合わせて今後の推移を見守りたい。



横浜市衛生研究所 小島基義 野村泰弘 竹内利江 小林伸好



仙台市:A(H)型

1990〜1991年のインフルエンザの流行は全国的に例年より遅く,仙台市においても昨年より約2ヵ月遅く,検査定点であるS内科小児科医院より依頼された(1月24日)検査材料から,MDCK細胞で2代継代後にA香港型ウイルスを2月1日に分離した。患者は市内の女子高校生で,主症状は発熱(39.7℃),頭痛,咳,鼻汁,咽頭発赤である。同様に2月1日にI内科医院の検体からもA香港型ウイルスを分離した。また2月2日には,東部の仙台市立六郷中学校で発熱(38.3℃前後),咳,鼻汁,咽頭発赤などの症状を呈した集団発生があり,分離を試みた結果,2株のA香港型ウイルスを分離した。なお,全国的にはAソ連(H)型,B型ウイルスも分離されていることから,今後これらの型のウイルスの侵入も予測されるため,継続して検査を行う予定である。



仙台市衛生研究所 熊坂満朗 羽場美佳 大堀 均



滋賀県:A(H)型,B型

1991年2月22日現在の滋賀県における集団かぜからみた,インフルエンザ流行状況について述べる。

今季集団かぜから分離されたインフルエンザウイルス型を,9保健所管内別に図1に示した。図中の数字は材料採取月日で,各保健所で必ずしも初発の材料が採取されたとは限らない。分離されたウイルス型は北部地域はB型,その他の地域はA(H)型であった。

過去5年間の滋賀県における集団かぜ発生状況(県教委・保健体育課調べ)を,週別クラス数で図2に示した。初発週を1週として各年次の始まりを一致させてある。さらに,集団かぜの初発週および流行型を表1に示した。図2および表1から,12月に初発のあった年,つまり1988/89年および1989/90年は,最高値を示した週は初発後8週目あるいは9週目にあった。1月に初発のあった年のうち,大きな流行であった1988年は初発後7週目に最高値を示した。今季の流行は1月に初発があり,4週目に小ピークを形成後,7週目現在,上昇傾向を示しており,今後の動きが注目される。また,1989/90年の集団かぜの発生は2峰性を示し,前の山はA(H)型,後の山はB型と,時期をずらせた流行であったが,今季も同じくA(H)型とB型の流行であるが,2型がほとんど同時に流行しているようである。

A(H)型の流行が確認された集団で,ペア血清が入手できた17名について,今季ワクチン株であるA/貴州/54/89と,今季分離株であるA/滋賀/2/91(H型)を用いたHI抗体価を測定し,ワクチン歴別に図3に示した。抗体価1:128以上を示した者は,ワクチン株に対しては14名あったが,分離株に対しては1名であった。



滋賀県立衛生環境センター 横田陽子



大阪府:A(H)型,A(H)型

本シーズン,大阪府下におけるインフルエンザの流行状況は他府県の例にもれず,立ち上がりが非常に遅れ,「集団カゼ」による学級閉鎖等の発生状況は1月末までにわずか30数件にとどまり2月に入っても2週間にわたって(1991年6,7週)各40件程度の報告が続いている。同様,サーベイランス定点から報告されるインフルエンザ様疾患患者数も1991年5,6,7週には一定点当たり2.1,4.8,8.3と増加傾向にあるものの,インフルエンザ流行期の数としては非常に小さく,低流行に終わることが予想される。

また,その起因ウイルスとしては,1月26,28日採取された定点患者検体からインフルエンザA(H)型が分離同定される一方,2月に入り,続いて2件の集団発生例から,A(H)型ウイルスが21株分離同定されている。その後,同じ時期に送付された患者検体からA(H)型,A(H)型が分離同定されるような定点が数箇所認められており,限られた地域において,2型のA型インフルエンザウイルスが混在し,流行起因ウイルスになっていることがうかがわれる。今週に入り気候条件も厳しく,患者の増加も予想されるので,今少し監視が必要と考えている(1991. 2. 22)



大阪府立公衆衛生研究所 前田章子 加瀬哲男



表.インフルエンザA型ウイルスの抗原性状(横浜市)
表1.患者分離ウイルスの性状(仙台市)
表2.仙台市立六郷中学校の欠席状況
図1.インフルエンザ分離ウイルス型の地域分布(滋賀県 1991)
図2.年次別,週別,学級閉鎖発生状況(滋賀県 1987−1991)
表1.年次別集団かぜ初発週および流行型(滋賀県)
図3.抗原別ワクチン接種歴別HI抗体価分布(滋賀県)





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