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Vol.12 (1991/1[131])

<国内情報>
クラミジア結膜炎の臨床像


クラミジア,アデノウイルスと単純ヘルペスによる結膜炎の頻度は,札幌の一眼科診療所ではそれぞれ10.1%,80%,9.8%であり,これらの結膜炎の鑑別は眼感染症サーベイランス情報の上でも必要である。クラミジア眼感染症として古くから知られているトラコーマは,我が国では激減しており,最近STDとして取り上げられているクラミジア結膜炎の臨床像は急性期のトラコーマとは似ているが,慢性疾患としてのトラコーマとは明らかに異なるので,その臨床像は再検討する必要がある。

最近6年間にクラミジアが結膜から分離培養でき,トラコマティスと同定できた70例,MicroTrak(Syva)によって結膜にクラミジア抗原を検出できた46例,Chlamydelisaによって血清中の高抗体価を有した6例(重複検出例を含む),合計91株の臨床像について総括する。

1.発病月:発病した月別は3月,8月と11月に3つの山をなす分布を示しており,3月が最も多く,1月が最も少なかった。しかし新生児型では3月は多くなかった。

2.好発年齢:新生児型の罹患日齢分布は6〜10日が多く,次いで16〜20日,1〜5日の順に多発していた。これらの新生児型はいずれも正常分娩で出生していた。新生児以外の成人型は20〜29歳の群にもう1つのピークを示していた。

3.結膜炎の程度:中等症(++)と重症(+++)の間には有意の差はみられなかったが,軽症(+)例は明らかに少なかった(p<0.001)。しかし,新生児型と成人型の間では有意差は認められなかった。成人型封入体性結膜炎は慢性濾胞性結膜炎を示し,アデノウイルスによる急性濾胞性結膜炎と異なる。しかも抗クラミジア剤の投与には2週間で反応し,充血,混濁腫脹の炎症所見は軽減するが,濾胞は消失せず数ヵ月に及ぶのが一般的である。すなわち濾胞はクラミジア抗原に対する局所の免疫反応である。

4.偽膜の有無:新生児型における偽膜の頻度は56.3%で,成人型の1.7%n比べ有意に高かった(p<0.001)。新生児結膜炎においては,新生児の結膜上皮がまだ多層化していないため,上皮下の実質層病変が起こりやすく,このためフィブリンの析出を主とした偽膜形成を見ることが多く,いわゆる偽膜性結膜炎の像を呈する。一種のcompromised conditionであるため細菌など混合感染し,角膜潰瘍を起こすこともあるため,血液をまじえた眼脂が見られた時には,充分な注意が必要である。

5.性別:新生児型に属する乳幼児32例の性別は,男14例,女18例であり,差が認められなかったが,成人59例では男が38例と,女の21例より有意に多く認められた(p<0.001)。

6.分離培養とMicro Trakの比較:病因診断法としては結膜病変では分離培養による方法が明らかに勝っているが,Micro Trakは簡便,迅速な点から実際的である。

分離培養およびMicro Trakの2つの検査を行った63例中,両方とも陽性であったのは32例(51%)であり,分離陽性で抗原陰性は22例(35%)であった。これに対して抗原陽性で分離陰性は6例(10%)であった。

最近のクラミジア感染症のリバイバルの大きな原因は,病原体の検出法の進歩に起因している。すなわち,従来の孵化鶏卵による煩雑な培養ではなく,組織培養法が確立されたことによる。病原体の検出はその感染部位によって感度に差があり,結膜においては尿道などよりも,組織培養に対する感度がよい。もちろんこれらの組織培養による病因診断でも即日接種を要するなど実際的でない面もあり,Micro Trakや血清診断法によってこれらを補うことも必要であろう。

(参考文献:臨床眼科43(5):861-864,1989)



青木眼科 青木功喜





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