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Vol.11 (1990/12[130])

<国内情報>
感染症サーベイランス解析評価について(平成2年第3四半期)


平成2年11月6日



 1.小児科・内科定点,病院定点の感染症

 概況:第3四半期の主要な動きは,百日せき様疾患の増加と手足口病の流行があげられる。百日せき様疾患は減少傾向が続き,昨年度は最低の発生となったが,本年は第2四半期から増加傾向がみられ,第3四半期に入って,特に第34週以降に増加が著明となり1987年に近いレベルに達した。百日せきは3〜4年ごとに増減をくりかえす性質があるので,そのあらわれとみることができる。手足口病は,本年は第27週に定点当たり6.12人のピークを認めたが,これは,感染症サーベイランスを開始してから,もっとも多い数字である。流行が大きかった年は1982年,1985年,1988年であるが,これらと同程度ないし,幾分上回る規模の流行となった。

 麻しん様疾患,風しん,水痘,溶連菌感染症,伝染性紅斑は,春の流行のピークから例年通り夏に入って下降し,第3四半期末に最低のレベルになっている。本年度のそれぞれの発生状況をみると,麻しん様疾患は昨年までの減少傾向から,本年は増加に転じ昨年の約5割増となった。風しんは1987年の全国流行から発生の山は毎年小さくなってきており,流行の谷間にあるといえよう。しかし,県レベルでみるとかなりの発生をみたところもあり,東北では秋田,東海地区の愛知,三重,九州では熊本の発生が目立った。水痘は本年の発生カーブは例年にくらべてもっとも低い状況が続いた。1988年,1989年もそれまでに比べて幾分少なめであったが,今年はさらに下回った。流行性耳下腺炎は昨年の流行ピークから徐々に下降しているところである。第3四半期には第27週定点当たり0.77人/週から第39週0.33人まで低下し,流行の谷間の最低のレベルとなった。溶連菌感染症は例年なみの動きである。異型肺炎は1988年の流行から徐々に低下傾向が続いており,第3四半期後半には,定点当たり0.10人/週と,流行の谷間の最低のレベルにまで下がっている。伝染性紅斑も1987年の流行から毎年減少しつつあるが,本年は一部の地域で増加がみられた。北海道と宮城の増加が目立ち,その他,東京周辺でやや増加した。ヘルパンギーナは毎年同様の発生パターンではあるが,本年の発生状況は例年なみのうちではやや多めの発生であった。

 無菌性髄膜炎もエンテロウイルスが主要病原なので,7月にピークを作る。1987年,1988年と少ない年が続いたが,昨年7月には病院定点当たり2.04人と例年なみに増加した。今年はそれよりは少なめで1.53人であった。九州沖縄,中国四国に多い県が目立った。その他の疾病は,特別の動きはみられなかった。

 (1) 百日せき様疾患:百日せき様疾患は3,4年ごとに増減をくり返す性質がある。第1四半期から第3四半期まで(第1週〜第39週)の本年の定点当たり累積報告数は2.72人である。同時期の最近の発生状況は,1987年4.15人,88年2.30人,89年1.55人と,89年はこれまでの最低となったのであるが,今年はこれを上回っている。

 週別発生状況をみると,第1四半期は定点当たり0.03〜0.05人で,第2四半期には0.07〜0.08人と増加したが,第3四半期に入るとさらに増加し,第34週以降は0.12〜0.14人となった。年齢別の罹患状況をみると,0歳24.4%,1歳29.8%,2歳16.0%で,約70%を占め,1歳がもっとも多い。このパターンは昨年までと変らない。

 流行状況は地域差があり,ブロック別には九州沖縄は第3四半期までの定点当たり累積報告数5.62人と特に多く,東海北陸3.98人,近畿3.12人が全国平均以上である。県別では福井8.95人,福岡11.35人,宮崎9.31人,鹿児島8.17人,沖縄5.73人が特に多く,その他,富山,岐阜,静岡,大阪,和歌山が4人以上で,西日本優位の発生である。

 (2) 手足口病:本年は大きな流行となった。第27週のピークには定点当たり6.12人となったが,これはサーベイランス開始以来もっとも多い発生である。これまでに大きな流行となった年は1982年第26週4.40人,1985年第28週5.74人,1988年第27週4.56人であった。

 本年は第27週のピークから下降したが,北海道と東北ブロックの一部(青森,岩手,宮城など)および静岡では9月に再増加を認めている。第3四半期までの定点当たり累積報告数は全国平均53.72で,最近の状況と比較すると同時期に1987年は16.69人,1988年53.46人,1989年5.00人であった。

 本年度のブロック別発生状況は,定点当たり累積報告数は九州沖縄88.36人がもっとも多く,次いで関東甲信越60.10人,東北52.83人,中国四国51.68人,近畿44.70人,北海道43.21人,東海北陸29.12人であった。県別では定点当たり累積報告数80人を超えたところは,秋田112.75人,山形110.30人,栃木83.72人,愛媛82.48人,高知81.73人,福岡96.30人,熊本112.02人,大分132.96人,宮崎103.49人,鹿児島80.00人である。

 2つの主な病原ウイルスであるコクサッキーウイルスA16型(CA16)とエンテロウイルス71型(EV71)について10月までに病原微生物検出情報事務局に報告された本年1月以降の分離数はそれぞれ104と217である。両ウイルスとも昨年後半から少数ながら分離報告が続き,5月以降増加した。CA16は今年になって北海道,福島,千葉,神奈川,静岡,奈良,徳島,香川,福岡,大分の各地研から報告され,一方,EV71は東北から九州に至る17地研から報告されている。両ウイルスがともに分離されている地域もあるが,秋田県などEV71の動きが目立つ地域が多い。

 (3) 麻しん様疾患:昨年まで低下傾向が続いていたが,本年度はぶり返している。第3四半期末までの定点当たり累積報告数は1987年20.35人,1988年14.51人,1989年9.88人と下ってきたが,本年は15.13人となった。ピーク時の定点当たり報告数をみても,1987年第12週0.88人/週,1988年第19週0.66人,1989年第19週0.44人から,本年は第19週0.77人と増えている。報告数は例年通り夏に入って下降し,第3四半期末には定点当たり0.15人/週と最低レベルになっている。

 本年度の発生は西日本優位で,定点当たり累積報告数は九州沖縄ブロック29.52人,中国四国26.64人がもっとも多く,近畿19.03人,東海北陸18.22人,北海道15.46人がこれに次ぎ,関東甲信越4.70人と東北2.79人はほとんど流行がみられなかった。もっとも多かった県は沖縄88.92人で,福井32.68人,滋賀33.64人,島根50.46人,岡山55.19人,広島37.98人,愛媛31.38人,大分41.59人,宮崎47.51人,鹿児島34.61人が全国平均の2倍以上の発生を示している。

 (4) 風しん:風しんは1987年の全国流行から年ごとに低下してきている。第3四半期末までの定点当たり累積報告数は1987年の169.55人から1988年64.80人,1989年31.91人から本年は19.89人に下がっている。本年のピークは第24週で1.26人/週を数えたのみで,以後下降し,本四半期末では定点当たり0.05人/週と最低レベルになっている。

 地域差があり,鳥取は定点当たりの累積報告数103.60人とかなりの流行を認め,その他熊本92.44人,秋田81.21人が多く,愛知69.23人,三重75.80人と東海地区での発生が目立っている。ブロック別には,東海北陸43.18人,近畿34.42人,九州沖縄21.88人,東北18.69人,中国四国12.10人,北海道10.91人,関東甲信越4.17人の順で,関東甲信越ではほとんど流行がなかった。

 (5) 水痘:本年度の発生は例年に比べてかなり少ない点が目立った。第3四半期末までの定点当たり累積報告数は1987年92.88人,1988年73.17人,1989年77.30人から本年は57.61人とさらに低下した。毎週の発生状況もこれまでのレベルよりも少ないカーブが続き,夏以後例年通り低下し,第39週定点当たり0.43人と最低レベルとなった。その後は12月末に向けて急増するので,今後の発生状況が注目される。

 ブロック別にみても,どのブロックも例年に比べて一様に低下している。本年度の発生が多かったのは沖縄県で,累積報告数定点当たり112.35人を示している。

 (6) 流行性耳下腺炎:3〜4年の周期で大きく変動している。昨年は流行年で,第28週に定点当たり2.91人のピークを作ったが,その後は次第に低下し,本年初め第2週定点当たり1.52人から第27週0.77人,第39週0.33人まで低下した。このレベルは流行の谷間の最低の発生状況である。本年第3四半期末までの累積報告数は定点当たり28.91人で,昨年同期は79.04人であった。

 ブロック別には中国四国53.10人,九州沖縄51.30人が多いほうで,東北39.70人,北海道37.47人が中間で,近畿25.39人,東海北陸20.97人,関東甲信越12.52人が少ないほうである。県別では岩手62.21人,秋田72.88人,和歌山78.68人,鳥取82.33人,島根66.63人,香川101.48人,高知64.58人,大分84.00人,宮崎76.54人,沖縄100.77人が多い。

 (7) 溶連菌感染症:本年度も例年とあまり変わりはない。第23週に定点当たり0.64人の小さい山を作った後,夏に入って低下し,第33週0.18人と最低となった。溶連菌感染症は9月以後にいちばん早く増加がみられる疾病である。第3四半期までの定点当たり累積報告数は15.93人で,1987年同期12.93人,1988年14.76人,1989年16.13人とほぼ同様の発生状況である。

 ブロック別には北日本に多く,北海道31.20人,東北25.08人,関東甲信越15.03人,東海北陸14.88人,近畿12.12人,中国四国17.54人,九州沖縄11.12人である。

 (8) 異型肺炎:1988年の流行から次第に低下している。本年の発生は少なく,1月頃は定点当たり0.2人台/週であったが,第2四半期には0.13〜0.21人となり,第3四半期後半には0.10〜0.12人とさらに低下した。異型肺炎は最近は4年ごとに流行しているが,定点当たり0.1人というのは流行の谷間の最低のレベルの発生である。

 (9) 伝染性紅斑:1989年の流行では第26週に定点当たり1.58人/週のピークを作り,その後は毎年減少してきたが,本年は昨年を上回る発生となっている。第3四半期末までの定点当たり累積報告数は本年は5.06人で,昨年の2.55人を上回っている。この理由は,北海道と宮城県の発生が多かったためである。累積報告数は北海道は定点当たり22.22人,札幌市54.90人,宮城県25.83人,仙台市34.45人で,これを反映して東北ブロックの発生数も9.64人になっている。その他,関東甲信越ブロックが6.14人と多くなっているが,関東地方でやや増加傾向がみられたことによる。埼玉7.40人,東京9.47人,神奈川9.69人で,横浜市11.07人,川崎市16.48人を数えている。その他のブロックは東海北陸2.19人,近畿2.77人,中国四国1.58人,九州沖縄2.16人とほとんど流行をみていない。

 (10)ヘルパンギーナ:毎年同様のパターンの発生を示すが,本年のピークは第29週4.86人で,1987年第28週4.54人,1988年第29週3.09人,1989年第29週3.68人に比べるとやや多い発生である。第3四半期までの累積報告数は1987年48.20人,1988年32.09人,1989年31.83人,本年41.46人で,例年なみのうちで多めの発生であったといえよう。

 ブロック別にも大きな違いはないが,中国四国57.94人,東海北陸54.49人,東北47.03人,近畿37.48人,九州沖縄37.15人,北海道36.07人,関東甲信越32.93人の順である。

 本年ヘルパンギーナからの分離が増加しているウイルスはコクサッキーA2型,A5型およびA10型である。いずれも前年に分離が少なかった型である。

 (11)無菌性髄膜炎:1987年,1988年は少ない年が続いたが,1989年はかなり増加した。本年は昨年よりは幾分少ない発生である。毎年7月に発生のピークがみられるが,1987年病院定点当たり0.65人/月,1988年0.93人から,1989年2.04人に増加したが,本年は1.53人であった。

 第3四半期までの病院定点当たり累積報告数は北海道1.00人,東北1.27人は少なく,中国四国7.09人,九州沖縄10.97人が多く,関東甲信越4.76人,東海北陸4.02人,近畿4.47人が中間である。県別にみると新潟18.83人,鳥取19.90人,香川15.33人,熊本31.00人,大分26.25人,鹿児島50.20人と九州の発生が特に多いことがわかる。

 無菌性髄膜炎患者からの分離ウイルスとして本年報告が目立つのはコクサッキーB群ではB2型,B3型およびB5型,エコーウイルスではエコー9型とエコー30型である。特にエコー30型では髄液からの分離報告が多く,最近1年に報告例をみると,エコー30型の全分離報告のうち髄液からも分離された例が半数以上に及んでいる。また,エンテロウイルス71型の分離例で髄膜炎が過去の流行よりも多い傾向がみられ,最近1年の集計で分離例の12%に髄膜炎が報告されている。

 (12)その他の疾病:感染性胃腸炎,乳児嘔吐下痢症,川崎病,インフルエンザ様疾患,脳脊髄炎は今期は特別の動きはみられなかった。

(以下次号につづく)



結核・感染症サーベイランス情報解析小委員会





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