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Vol.11 (1990/10[128])

<特集>
サルモネラ・エンテリティディスの流行 1989年


 病原微生物検出情報で取り扱う病原菌のうち,地研・保健所において最も多く検出されるのはサルモネラである。1989年の検出数は5,600で,全報告数の35%を占め,1985年〜1988年の平均検出数4,029,平均検出率26.3%をいずれも上回った。厚生省統計情報部の「食中毒統計」(平成元年)によると,サルモネラ食中毒は事件数146,患者数6,750で,ともに腸炎ビブリオに次いで多かった。

 月別検出数からみたサルモネラの発生は8月にピークをもつ夏季多発のパターンを繰り返してきたが,1989年は5月と9月にピークを示した(図1)。

 検出数の多かったサルモネラ上位3群について月別検出状況を見ると,O4群の検出ピークが5月に,O9群の検出ピークが9月にあり,いずれも1984〜1988年の平均とは異なった動きを示した。特に1989年にはO9群の異常な増加が明らかとなった(図2)。

 O9群は全サルモネラの27.4%で最も多く,血清型による検出率でもO9群のS.Enteritidisが最も多かった(図3)。表1にわが国で分離された血清型上位15を示した。1989年にはS.Enteritidisが検出数1,347で1位を占め,1982年以降,1988年まで首位を占めていたS.Typhimuriumが検出数848で2位となった。1982年以降,S.Enteritidisの検出数は平均208,多い年でも267であった。したがって,1989年の発生は例年の5倍以上になる。

 病原微生物検出情報に報告されたS.Enteritidisによる集団発生は24事例で,推定原因の特定されないものが1/3に上っている(表2)。しかし,ファージ型別試験の結果,1989年に分離された菌の57%が34型であったこと(表3),しかも34型は広範に検出されたことから,1989年のS.Enteritidisの多発は広域流行であった可能性が濃厚である。

 近年,S.Enteritidisで汚染された鶏卵による食中毒の流行が,英米をはじめ先進諸国で問題となっており,わが国でも今後注意が必要である。なお,流行を国際的な視野でみるためにもファージ型による解析が必要であり,今年度から本菌のファージ型別システムを導入した。流行発生の際には,予研ファージ型別室宛に分離菌株を送付されれば型別結果を還元するので,解析に利用してほしい。



図1.サルモネラの年別月別検出数 1984〜1989年(地研・保健所集計)
図2.1989年上位3群の月別検出数(地研・保健所集計)(1984〜88年平均数との比較)
図3.サルモネラ血清群別・型別検出率 1989年(地研・保健所集計)
表1.サルモネラ上位15血清型 1987〜1989年(地研・保健所集計)
表2.S.Enteritidisによる集団発生事例 1989年
表3.わが国で検出されたS.Enteritidisのファージ型





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