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Vol.11 (1990/7[125])

<国内情報>
A型肝炎の流行状況−熊本市とその近郊


 1989年初頭より,熊本市内ではA型肝炎の散発例が見られていたが,12月に入って,一挙に流行の様相をみせた。1990年3月には最も多発し,熊本市と近郊郡部で月間45名の患者発生が認められた。熊本市では緊急に対策協議会を設け,県と市の医師会の協力を得て医療機関に協力を求め,緊急調査を実施した。437機関(市内395,市外42)のうち,4月の時点で145医療機関から回答が寄せられ,そのうち53機関から患者報告があった。その結果1989年1月から1990年3月末までに144名の患者があったことが判明した。5月に入ってようやく患者発生数は減少しはじめ5月末には,ほぼ終息にむかっているが,その後の集計も加えると1989年1月から1990年5月末現在までに市と県の衛生部調査によって判明した患者総数は201名である(表1)。

 患者年齢は20から40歳台に集中した。次いで1〜9歳の年齢層であった(表2)。

 疫学的調査では,市内A保育園の園児と家族,関係者に集積発生が注目されたが,患者の居住地区の分布状態,経時的患者発生の地域分布の推移,職員と園児の家族水平伝播の実態調査,上下水道施設調査,飲料水とプールの水のウイルス検査などを総合解析すると今回の流行は水系伝播ではなく,連鎖伝播であると推定された。また表3に示されたように,このA保育園関係者が今回の流行期の患者の30%を占めていることから,A保育園が今回の流行の大きな焦点であったことがわかった。年間を通じて患者が散発しており,12月になって一挙に流行の様相を見せたが,このことはA型肝炎の常在化の傾向を示唆する。

 別途に1990年4月,熊本県衛生公害研究所で行ったHA年齢別抗体(IgG)保有率をみると表4のとおりであって,40歳以下はほとんど抗体を保有していないことがわかった。40〜50歳台でようやく半数が抗体陽性であり,上記の患者発生状況をよく裏付けている。



熊本市立熊本保健所  工藤 磐
熊本市保健衛生研究所 小西 鐵朗
熊本県衛生公害研究所 田中 明


表1.A型肝炎月別患者発生数(1989年1月〜1990年5月熊本市および近郊郡部)
表2.年齢別患者発生数
表3.IgM抗体陽性確認患者の感染経路
表4.A型肝炎年齢別抗体保有率(1990年熊本県)





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