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Vol.11 (1990/4[122])

<特集>
乳児嘔吐下痢症とロタウイルス 1988〜1990


 厚生省感染症サーベイランス情報における乳児嘔吐下痢症および感染性胃腸炎の患者発生では,1988および1989年に2年連続して,それ以前と異なる傾向がみられた(図1)。

 乳児嘔吐下痢症は1988/89,1989/90の2シーズンとも少なかった。これに対し感染性胃腸炎は2年続けて発生が多く,特に春から夏にかけて比較的高いカーブが続いた (本月報第10巻第4号参照)。 乳児嘔吐下痢症は大部分がロタウイルスによると考えられるので,感染性胃腸炎との比の違いはロタウイルス以外の病原体の動きを示唆するとみなされる。この関係をみるために,四半期ごとに乳児嘔吐下痢症と感染性胃腸炎の患者報告数の比を以前と比較した。1988年の第4四半期は感染性胃腸炎だけが以前の年よりも増加したため,比が小さくなり,一方,1989年と1990年の第1四半期はともに乳児嘔吐下痢症が少ないことが原因で比が小さくなった(図2)。

 1987〜1989年の患者の年齢分布をみると,乳児嘔吐下痢症では患者総数の増減にかかわらず,0歳が43〜45%,1歳が38〜39%,2歳が11〜13%,3歳が5〜7%とほぼ一定であるのに対し,感染性胃腸炎では1988年は患者総数の増加にともなって0〜2歳の割合が減少し,5歳以上の割合が増加した(表1)。

 1988年8月〜1990年3月の2シーズンにロタウイルスは924,小型下痢ウイルス(SRV)は369が検出報告された(表2)。ロタウイルス検出は1989年2月にピークがあり,一方,SRVは1988年11月にピークがあった。ロタウイルスの報告中には1989年2月および4月にそれぞれ4例と2例のC群ロタの検出報告が含まれている。1988/89についてはロタは37県市,SRVは18県市から,1989/90についてロタは22県市,SRVは6県市から報告された。1989/90シーズンの検出数は未報告分がこの後さらに追加されるはずである。

 ロタウイルスの検出方法を表3に示した。R-PHAの割合が一時期60%以上に増加した (本月報第9巻第5号参照) が,1988/89では40.7%,1989/90では20.4%に減少した。R−PHAではA群ロタのみしか検出されない。ロタとSRV両者を検出するには電顕が利用される。その他の方法として大部分を占めるLatex凝集反応の報告は増加している。また,C群ロタの検出にPAGE(ポリアクリルアミドゲル電気泳動)が用いられている。

 ロタウイルス検出例の年齢分布は0歳33%,1歳40%と低年齢が多く,4歳以下が92%を占めるが,成人からも検出される(表4)。

 1988/89シーズンにロタウイルス検出例について臨床症状の報告があったのは739例で,うち96%に胃腸炎,42%に発熱,15%に上気道炎がみられた(表5)。これに対しSRVでは胃腸炎症状以外の症状の報告は少ない。同シーズンに臨床診断名が記載された例についてみると,ロタ検出例では「乳児嘔吐下痢症」305(48%)に対し,「感染性胃腸炎」253(39%),その他84(13%)であり,SRV検出例ではそれぞれ16(10%),102(65%)および38(24%)であった。



図1.乳児嘔吐下痢症と感染性胃腸炎の患者発生状況(厚生省感染症サーベランス情報)
図2.乳児嘔吐下痢症と感染性胃腸炎患者発生状況(1986年第3四半期〜1990年第1四半期)
表1.年齢別乳児嘔吐下痢症および感染性胃腸炎患者発生状況,1987−1989年(感染症サーベランス情報)
表2.年月別ロタウイルスと小型下痢ウイルス検出状況(1988年8月〜1990年3月)
表3.ロタウイルスの検出方法*
表4.ロタウイルスと小型下痢ウイルス検出例の年齢分布(1988年8月〜1990年3月)
表5.ロタウイルスと小型下痢ウイルス検出例の臨床症状(1988年8月〜1989年7月)





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